2012年12月26日水曜日

「プリンツェンのドイツ                               Deutschland nach die Prinzen in Deutschland」


 プリンツェンの歌のテーマはずばり「愛」です。しかし、これがひと筋縄ではいかない、実に屈折したものなのです。個人的で純粋な愛情と社会に対する愛憎が、彼らの中では渾然一体となっています。例えばごく初期に作られた曲の中に、”Abgehau’n”(「とんずら」とでも訳すのでしょうか。)という美しくも悲しい歌がありますが、この曲によって、東西ドイツの統一という歴史的な出来事が、これまで一緒に過ごしてきた二人に別離をもたらした現実を知らされるといった具合です。

 2010年にリリースされたアルバム「D」に、面目躍如たる曲があります。1つは「Thema Nummer 1」、もう1つは「Deutschland」です。
 前者は、雑事に追われる日常の中で、人生の第一のテーマ、最大の関心事は相手への愛だと信じるカップルを歌ったものであり、美しいメロディーにのせて純愛を歌うのは、ごく初期の曲から続く一本の柱です。

 後者は、自国の制度や社会のどうしようもないダメさ加減を皮肉たっぷりに告発し、自嘲的に歌い上げた曲で、こちらもごく初期からプリンツェンの歌を貫くもう一本の柱です。 ちょっと歌詞を見てみると、

「もちろん「賭ける?」(というテレビ番組)を考え出したのはドイツ人だ
楽しい時間をどうもありがとう
僕たちは世界でもっとも愛想のいいお客さん
控えめで――お金持ち
どんなスポーツでも一番
税金なんて世界記録
ドイツに来て ずっとここに住んでください
そんな人たちを僕らは待っているんだ
ここが気に入った人は誰だって住める
僕たちは世界でもっとも親切な民族
ドイチュ、ドイチュ……
でもひとつだけ間違ってることがあって
それは、シューマッハーがメルセデスに乗ってないこと」 (注:当時、フェラーリに乗っていた)

 二番の歌詞はさらに過激にエスカレートし、全部は書けませんが部分的に抜粋すると、

「人を殴ることにかけては特に上手
火をつけることだって信用していいよ
僕たちは秩序と清潔が好きなんだ
いつだって戦争の準備は怠らない
よろしく世界中のみなさん ほらこれでわかったろう
僕たちがドイツを誇りにできるわけが……豚野郎!」

 ちょっと聴くと震え上がってしまうような歌詞で、こんな歌日本にはありません。もちろん歌われている内容は世界のどこにでもある現実であり、ドイツがとりわけ邪悪な国というわけではありません。(それどころか地球規模でみれば、むしろ非常にいい国だと思います。) 

 でも彼らの歌はこれで終わりではないのです。私は才能豊かな彼らが、どうして英語で歌わないのかずっと不思議に思っていました。イタリア語で歌ったものはあるし、日韓共催のサッカーワールドカップの時には、日本語で歌った「オリ・カーン(オリバー・カーン)」が話題になりました。ラテン語でさえ歌っているのです。しかし、「Deutschland」を聴いてそのわけがはっきり分かりました。この歌はこう続きます。

「これらすべてがドイツ―これらすべてが僕ら
こんなところ世界のどこにもない―ここだけ、ここだけ
これらすべてがドイツ―これらすべてが僕ら
僕たちはここで生き、ここで死んでいく」

 圧倒されました。どうしようもなく母国を愛しているのです。そしてこの後に
「ドイチュ、ドイチュ……」という連呼が続いて終わります。憎むべき側面を持つ現実も自らの一部としてひっくるめて背負い、愛していくという覚悟の表明です。日本とはスタイルが全く違いますが、戦後このような若者を(もうすでに中年以上の域に達していますが)、生み出したドイツという国もやはりすごい国だと言わざるを得ません。