2012年12月27日木曜日
「紅春 6」
春になりました。庭の草木も花を咲かせ、自然の息づかいが戻ってきました。りくにも初めての春です。りくがすくすく育っていることは、家族のだれにとっても大きな喜びでした。その頃、父は庭仕事をするとき、いらない木材で囲った柵の中にりくを入れて、一緒に外におりました。
ある日、草むしりをしていた父がふと振り返ると、いるはずのりくがいません。りくはもう柵を越えられるほど大きくなっていたのです。
「りくーっ。」
遠くには行っていない気配なのですが、怒られると思うのか出てきません。父が思案していると、たまたまそこに八重丸の飼い主さんが通りかかりました。八重丸はりくより2才ほど年上の柴犬で、散歩仲間です。
犬にも合う犬と合わない犬があるのが不思議ですが、りくは赤ちゃんの頃から八重丸君が大好きです。八重丸君はりくよりさらにぽおっとした感じの子で、年長者の余裕かあまりりくを相手にしませんが、りくの方は散歩中出会うと大喜びでした。
事情を知った飼い主は、
「今、八重丸連れて来っから。」
と言って帰られました。
八重丸の到着とともに、事態はあっけなく収束しました。一緒に遊びたいりくはすぐ姿を現し、「ご用!」。その後父にみっしり叱られ、しばらくの間、りくは「脱走犬」と呼ばれていました。
これが、我が家で年に1度は語られる、「りく脱走で八重丸緊急出動事件」の顛末です。