2012年12月28日金曜日
「都バス讃歌」
メガロポリス東京を縦横無尽に走る都バスは、その規模と路線のユニークさにおいて世界でも類を見ない乗り物です。アメリカの交通事情を知らないので、完全な自信をもって言い切ることはできませんが、ヨーロッパに関してはそう断言できます。トラム(ドイツでは Straßenbahn) と呼ばれる路面電車を併用して形成される公共交通網もそれはそれで大変魅力的ですが、今の東京で現実的な選択肢ではないでしょう。
特筆すべきはその安定したシステムで、これほど大量にバスを投入しながら、時刻が当てにならない乗り物の代名詞ともいえるバスを驚くべき正確さで運行させていることです。もちろん、時には5分や10分遅れることはありますが、大局的にみればそれは許容の範囲で、これだけの規模でかつ整然とバスを走らせることができるのは、日本をおいて他にありますまい。
以前ナポリを訪れたとき、車やバイクがびゅんびゅん走り回る市街に信号がなく、道路を横断するのに命がけだったことに参ったのもさることながら、バスの時刻表がないのにも閉口しました。常に渋滞だとしても時刻表があれば、少なくともどれくらいの頻度でバスが来るかわかったはずです。それを思うと、都バス運行の緻密さには感嘆の声を上げざるを得ません。
この他にも都バスの長所はたくさんありますが、ある地点から別な地点へ最短時間で移動することを目指すのが電車であるなら、都バスは全く異なったコンセプトで作られていることが挙げられます。
東京の電車網はこれ以上ないほど発達しており、海や川という要因で電車よりバスの方が利便性の高い周辺部を除いては、電車で行けないところはありません。にもかかわらず、都バスは走っており、その路線の特徴は、「弧やループを描く路線」と「意表をついた起点・終点」の設定です。ほとんど埼玉に近い場所から池袋へ弧を描く1本の路線、王子から終点新宿へ行くのに西へ大きな輪を描いて延びる路線、荒川土手あるいは等々力から東京駅まで1本で行ける長い路線と、誰が考えたのかどれをとっても遊び心が感じられる路線です。都バスは寄り道することを目的として作られたものと言っても過言ではありません。
格安の運賃で23区のほぼすべてをカバーし、乗り降りが楽なうえ、江戸時代の地名が残る停留所を通りながら人間らしいスピードで移動できる都バスは、これからの社会に最適な公共交通機関としての重要性をますます高めていくことでしょう。