2013年4月30日火曜日

「ドイツ旅行 母とともに」

 もう二十年近く前のことですが、母と私とヘルベルトの三人で、ドイツ旅行をしたことがありました。まだ、ドイツ統一など思いもよらない時分で、また二週間余りという限られた時間でしたから、フランクフルトから南下して、南ドイツへできるだけドイツらしい街を巡る計画を練りました。

 ハイデルベルクHeidelbergと近郊のネッカー渓谷Neckartal, 中世の街並みを残すディンケルスビュールDinkelsbühlや帝国自由都市であったネルトリンゲンNördllingen を経て、日曜には少年合唱団Domspatzen で有名なドナウのほとりのレーゲンスブルク Regensburg にてSt. Petersdomの礼拝に出席し、 さらに南下しアルペン街道への拠点ミュンヘン München からルートヴィヒ2世の夢の跡、ヘレンキームゼーHerrenchiemsee, リンダ―ホフ Linderhof, ノイシュヴァンシュタイン Neuschwanstein の三城およびエタール EttalとヴィースWies という絢爛豪華な教会という典型的な観光コースを巡り、 キリスト生誕劇で名高いオーバーアマガウ Oberammagauまで。

 その後、今度はバイエルンから北上しシュヴァルツヴァルト(黒い森)Schwarzwald 地方の大学都市 Tübingenとそこからほど近いドイツで最も美しい城と言われるホーエンツォレルン城 Schloss Hohenzollern, 落ち着いたバロック都市 カールスルーエ Karlsruheを経て、 グーテンベルク博物館のあるマインツ Mainz, ライン河畔の小さな街々を巡り、リューデスハイム Rüdesheim へ・・・。

 車でどこへでもアクセスでき、荷物の運搬もすべてヘルベルトがやってくれましたので、母は「こんなラクで楽しい旅行はない。」と喜んでいました。母は上野の国立西洋美術館に海外から名画が来ると必ず上京するほど絵画好きでしたので、殊にミュンヘンではピナコテーク Pinacothek を堪能しました。1日かけて(本当は1日でも足らないのですが)アルテとノイエを巡り、よほどうれしかったのか「今日は何万円分も絵を見た。」と、普段はしないおかしな表現をしていました。シャガールのステンドグラスで有名なシュテファン教会 St. Stephen’s Kircheや、初めての活版印刷による聖書のあるグーテンベルク博物館の印象をかみしめるように、夕暮れのマイン川の風に吹かれる母の姿は一枚の絵のように美しく見えました。

 帰国後は、口を開けば「ドイツでは・・・」を連発し父を閉口させたようでしたが、この旅行はいつまでも楽しかった記憶として残ったようです。母には何もしてあげられないうちに逝かれてしまいましたが、この旅行だけは行っておいてよかったと今しみじみ思います。