2013年4月9日火曜日
「日本とドイツ 親の権限」
「あれはなんて言っているの?」
或る時ヘルベルトが尋ねました。夕方、毎日聞こえてくる有線放送のことです。
「『6時になったので、子供はおうちに帰りましょう』って言ってるんだよ。」
彼が驚いたのは言うまでもありません。ドイツでは門限を決めるのは親の権限であり、何時に決めようと他人にとやかく言われることはないからです。逆に「8時まで帰って来るな。」というようなルールでもよいはずです(無論、そんなことを決める家庭はないでしょうが)。家庭のルールが虐待的なものであれば、通報されるだろうと思いますが、そうでなければ家庭の裁量であり、子供の門限を市内の全家庭に呼びかけるという発想はドイツにはありません。
それで思い出したのですが、ドイツでワールドカップがあった年だったか、何かの催しでサッカーボールより一回り小さいゴム製のボールをもらったことがありました。持って歩くのも邪魔だし第一使わないので、ヘルベルトがレストランで隣の席にいた少年にあげようとしたのですが、少年は困った顔をして首を振りました。
「なんだ、いらないのか・・・」と思いましたが、ヘルベルトが思いついて母親に話しかけ、ボールをあげる許可をもらって渡したところ、ボールを手にした子供は大喜びでお礼を言いました。日本だったら「お母さん、ボールもらってもいい?」と聞きそうですが、この出来事は、ドイツでは「知らない人から物をもらってはいけない」という家庭内ルールがあった場合、交渉の余地がないと子供が思うほど親の権限が強いということではないでしょうか。
日本でもそれぞれの家庭にルールがあるでしょうが、守らせるのが大変なこともあり、共同体的ルールに変換してしまおうとする力が働くようです。有線放送の件は、音に対する根本的な考え方の違いもあって、ドイツではあり得ないと思われますが、それはまた別の話です。
有線放送が子供に帰宅を促すものであると知って、ヘルベルトは驚いてこう尋ねました。
「それで子供は家に帰るのか?」
私は答えました。
「うん、いい子は帰る。」