2013年3月30日土曜日

「運の悪い日」


 月に一度渋谷へケーキ作りに行っています。といっても電動攪拌機はあるし、フルーツケーキ(パウンドケーキ)ですから失敗する心配もないゆるい「お仕事会」です。それで少しでもお役にたてるのならと思いお手伝いしています。

 ところがその日はケーキ作りはお休みで、手芸をやるとのこと。テーブルが2つに分かれていて、「どうぞお座りください。」と言われたテーブルには刺繍の用意がされていました。むむっ、嫌な予感・・・。一口に刺繍といってもリボン刺繍とか様々な種類があるようです。私以外の方々は、ここ何年かなさっているようで、先生が机に並べた布と糸の見本セットについて、私にはまったくわからない専門用語が飛び交っていました。

 先生に刺繍の心得があるかどうか聞かれましたが、
「何十年か前に小学校の家庭科でやって以来です。」
と答えるしかありませんでした。先生は皆さんの希望を聞きながら、布と糸を割り当てていきます。私は希望を言えるほどの知識がないので、
「レベル1からお願いします。」
と言いました。
「川辺野さんはこれかしらねえ。」
どういう基準で選ばれたのか、先生がくださったのは、「モザイク風のテーブルセンター」になるはずの目の粗い大きな麻布(ずだ袋のような一見美しくない布)と5本どりで用いるという非常に細い5色の糸でした。

 すぐに皆さんそれぞれの課題に取り組み始め、私も始めましたが、開始してすぐ、
「げっ、こんな細かい織布に刺すのか・・・こりゃあ、無理だわ・・・。」
と大苦戦しました。お隣の方が、
「まあ、川辺野さん、いきなりこんな大作を・・・。今年のバザーに間に合わなくてもいいんですよ。私も最初は2年がかりで仕上げました。」
と笑っていらっしゃいましたが、笑いごとではありません。自分でこの課題を選んだわけではないのです。やはり、これは大きな作品だったのか・・・。

 色違いの大きな同じ模様が3×5で15個並んでいるので、まず基本図案のパターンを頭に入れようとしました。左右対称かと思っていたら微妙に違っていたり、端からの目数も内側か外側かで一目違っていたりすることに愕然としました。これは一筋縄ではいかない・・・。結局その日は4時間ほどでほんの数十目しか刺せませんでした。

 終わる時、ふともう一つのテーブルの方を見ると、そちらは編み物のグループでした。ああ~、何十年もやってないけれど、編み物の方がまだしもよかった、やれば思い出すかもしれないし・・・と心の中で叫んでしまいました。しかし、やったことのないことに出会うというのも何かの縁であろう、何ゆえに先生がこんな大作を私に与えたのかわからぬが、何か深い意味があるのであろうと思い、課題となった作品を家に持ち帰ったのでした。