2013年3月26日火曜日
「病院のカフェ」
もう10年近く前のことになりますが、父が病を得て入院し毎週末見舞ったことがあります。金曜の夕方新幹線で帰省し、土日に病院へ見舞いに行くという生活が半年続きました。当初はいつ終わるともしれなかったのですが、だからこそ毎週続けられたのだと思います。初秋から早春までの時期は年末年始を除けば長いこと帰省する機会はありませんでしたから、病院まで川沿いのサイクリングロードを行くとき、一週ごとに黄金色に染まっていくえも言われぬ風景を存分に味わい楽しみました。「私の故郷はこんなにも美しかったのだ。」とあらためて思いました。
病院は周囲に桃畑が広がり吾妻山の雄姿を望む絶好の場所にありましたが、なにしろ遠い。冬は寒さの中、1時間に1、2本しかない電車を待って、最寄駅からさらに1キロほど歩かねばなりませんでした。駅前の大きな庭のお宅にセントバーナードがいて、毎週通ううちすぐこちらを見つけて跳んでくるようになり、電車を待つ間の楽しみとなりました。
冬休み中は、雪道をヘルベルトとともに毎日見舞いに行きました。実は病院の1階の売店では珈琲とケーキを出しており、ガラス張りの広々としたロビーでお茶することができました。珈琲にうるさいヘルベルトがお代わりするくらいおいしい炭焼き珈琲を、大きなカップでいただけるので、とても豊かな気持ちになれ、これも楽しみの一つでした。
大晦日に父が言いました。
「明日は元旦礼拝だから、来なくていいぞ。」
食事でもしてゆっくりしようかと考えて、帰りの電車でヘルベルトに父の言葉を伝えました。
「明日、礼拝の後、どこか行きたいとこある?」
「そりゃあ、パパのところだな。」
「明日も行く?」
「もちろん。」
私はうれしくなりました。次の日病院へ行くと父は殊のほか喜び、3人で1階のロビーに行き、たっぷりおいしい珈琲をいただいたのでした。