2013年3月19日火曜日

「紅春 18」


 冬場はさすがにしないのですが、兄とりくはよく夜中に散歩をします。(父はこれを「夜遊び」と呼んでいます。) 夏の昼間は暑いこともあって、夜、兄が階下に降りてきた時に散歩をせがんだのが最初のようです。りくの賢いところは「無駄な動きがない」ところで、たとえばお風呂に入っている最中はまったくやって来ないのですが、入浴が終わるか終らないかのタイミングでやってくると言います。眠い時に散歩は厄介なので、「今日は来ないな、逃げ切れそうだ。」と思った瞬間に姿を現すとのこと。

 或る時ふと目が覚めると、風呂場の灯りが廊下に漏れていました。兄がお風呂に入っているのだなと思いつつまた眠りに落ちようとした時、傍らで寝ていたりくがすぅっと出ていくのがわかりました。風呂場の電気が消えたのはその数秒後で、気味が悪いほど絶妙なタイミングでした。兄が言っていた言葉を目の当たりにし、その正確な予測能力に恐れ入りました。常にどんな音でも拾うべく360度小刻みに動く耳と、動物的な勘の賜物でしょう。