2013年3月15日金曜日

「養生食」


 ずいぶん前のことですが、「2週間ぶりに偶然見つかったワゴンの中の機内食が全く腐っていなかった」という話を聞いてから、機内食を口にすることができなくなってしまいました。よほどすごい保存料が使ってあるに違いないと思うだけで、機内で食事の匂いがすると気持ちが悪くなってしまうほどでした。ことほど左様に、食欲というものは脳の働きの産物です。

 寒気がして「これは風邪だな」という時は、スーパーで買いだめをして帰ります。誰でも自分の養生食をもっているものですが、私の場合はヨーグルト、バナナ、卵雑炊、冬ならみかん、夏ならいちご、スイカなどです。現在では日常の食品ですが以前はそうではありませんでした。私が子供の時分はヨーグルトを食べる習慣はなく、いつも風邪をひいて「何食べたい?」と聞かれると、小さいガラス瓶(寸詰まりの牛乳瓶のような形で、今は見ないですね。)に入ったヨーグルトを買ってもらっていました。ヨーグルトはうちでは明らかに病人食でした。バナナは今なら高級メロン的な扱いで、祖父が遊びに来る時、きれいに包装された大きな一房をお土産に持ってきたほどです。

 意識していたわけではありませんが、そうしてみると、他のものも子供の頃の幸福な記憶と結びついているのがわかります。養生食とは、実際の栄養補給以上に、「これを食べたらきっとよくなる」と脳が欲する原初的風景の中の食べ物に違いありません。だからこそ、布団の中で熱に浮かされていても、なんとなくちょっと幸福な気分でいられるのです。