2013年1月2日水曜日

「紅春 7」



 りくが子供のころ、学校帰りの子供たちが「りくと遊ばせてください。」と言って、時々大挙してやってきました。  りくは大人気なのです。無理もありません。誰とでも仲良くできる気だてのいい子で、りくを見ているとほんとにトクだなと思います。いつも「近寄ったら噛むよ。」というオーラを出している犬と比べたら、りくは何の努力もなしに、みんなから「りくちゃん、りくちゃん、かわいいなあ。」と言われます。

*背景は一度も入ったことのない犬小屋。自分は入らないのに猫が入っていると猛烈に怒ります。

 おまけに見栄えが良く、なおかつ小憎らしいほど賢いのです。今は床まで届くのれんを使っているので、りくは茶の間と廊下の行き来が自由にできますが、以前は戸をガタガタさせるたびに開けてあげていました。兄が洗面所で歯を磨いていると、戸をガタガタさせているので行ってみると、戸は開いていたということがありました。りくは兄がやって来るのを見越して戸を揺すっていたのです・・・ため息。

  飼い主の欲目もあるでしょうが、りくは三拍子そろっています。天は二物を与えずといいますが、与えすぎではないでしょうか。

 「子供らが来てるときは、危ないから見てるようにしている。」
ある時、父が眉間にしわを寄せて言いました。
「りくは噛むような犬じゃないから大丈夫じゃない?」
「この前、りくを蹴った子がいて、そいつには『お前はもう来んな!』と言った。」
逆の心配でしたか。父は人間への信頼をなくすような行為を何より恐れたのです。

 りくは子供のころ特によく遊んでくれた近所の子を覚えていて、その子が学校の行き帰りに外を通るのを見ると、大人になった今でも、「いってらっしゃい。」「お帰りなさい。」と家の中から声をかけています。たまたま外にいる時は、頭をなでてもらえます。