2013年1月27日日曜日
「紅春 11」
りくは子供のころは茶の間で寝ていたのですが、最近は季節や状況によっていろいろなところで寝ています。たいていは父の寝室に一緒に行き、母の遺影のある座卓の前の座布団の上で寝ますが、冬は寒いので父を寝かしつけてから(本当です。父が寝たのを見届けると戻って来るのです。)茶の間に戻り、余熱のあるこたつで寝ます。
私が実家に来ているときは全く状況が変わります。茶の間から私が私室としている客間に来て、ドアをカシャカシャして開けてもらおうとしますが、私が入れないとまた茶の間に戻るということを何度か繰り返します。
「明るくなる頃なら入れてやってもいいか、昼間は入って来るんだし・・・。」
と考えたのが運の尽きでした。夏なら5時にはもう明るくなりますが、冬は真っ暗です。そのうち、
「まだ暗いけど、4時半だから・・・まあ、いいか。」
となり、それが4時になり、とだんだん来る時間が早くなっていきました。やがて3時になり、2時になり、こちらも睡眠を中断されボーっとした頭で毎回時間を確かめるわけではないので、ついに12時より前にやってくるようになりました。入れなければいいのですが、カシャカシャがだんだん激しくなるのでそうもいかないのです。
それだけではなく、はじめは足元のじゅうたんの上で寝ていたのに、次第に布団の上に侵食してくるようになりました。冬は寒いのか顕著にエスカレートしていきます。ついに我慢の限界を越えたとき、私は父に窮状を訴えました。
「お父さん、見てください。あそこにりくが寝てるんです。」
私の布団のほぼ中央にあるクレーターのようなくぼみを見て、父は言いました。
「こ、こんなド真ん中に・・・これはひどい。」
「でしょう。私は左右どっちかに寄って小さくなって寝ています。あのくぼみの真下に電気あんかがあるんです。」
「ほうっ。」
「ひさしを貸して母屋を取られた気分です。お父さんからもりくに言ってください。」
「りくはあんかの上で寝てるのか。あったかいところにいるんだな。そのへんがやっぱりりくは違うな。」
だめだ、話の焦点が完全にズレている・・・。 父による解決は望み薄だ、何か手を打たないと。
その後、実家から自宅に帰って夜になり、なんだか自分がウキウキしていることに気づきました。そのわけを心の中でたどってみてわかりました。
「あー、手足を伸ばしてゆっくり寝られるのはいいなあ。」