2013年1月26日土曜日

「路傍のチェス対決」

 外国を旅行していて、その時間、その場所でしか出会うことのない幸福な瞬間に出くわすことがあります。インスブルック Innsbruckの夏の夕方でした。夕方6時といっても陽は高く、そぞろ歩きにはまだちょっと早い時刻でしたが、やや涼しい風が吹いてきた時分でした。街の公園には、思い思いに楽しむ人々の姿がありました。

 そこに等身大のチェス盤があり、腰の高さほどもある駒を動かして、チェスの対局をしている老夫婦がいました。まわりには孫と思われる子供たちがいて、声援を送っています。オーパ Opa vs. オーマ Oma です。Opaの実力がまさっていて、圧倒的に優勢です。気の強そうなOmaは、頭から湯気を出さんばかりの意気込みでがんばっているのですが、Opaが容赦なく攻めていくので、どんどん負けていきます。Opaの圧勝で対局が終わりました。

 なんとも微笑ましい光景でした。その場を離れる時、孫たちが、
「もう1回、もう1回」
とコールしました。ヘルベルトが、
「もう1回はむごいよね。」
と言ったので、私は大笑いしました。美しい夏の夕方でした。