2013年1月9日水曜日

「紅春 8」

 
生後半年頃だったでしょうか、歯が抜け替わる時、りくが何でも噛んだ時期がありました。ある日、私が昼寝している間に、りくが電動自転車の充電器のコードをかじり、ちぎれた黒いコードの破片がぼんやり見えた時、私は卒倒しそうになりながら「ああ~」と叫んでいました。
 りくを見ると、目を輝かせながら、「分解しました」と得意げな顔です。
「りく~、なんてことしたんだ。」と絶叫すると、途端にりくは自分が何かまずいことをしたのがわかって、すっかりしょげてしまいました。私は、ちょっと叱りすぎたかなと後ろめたい気持ちになりました。

 それから2時間くらいたった頃、父がふと言いました。
「今日はりくはおとなしいなあ。」
ああ、やはりそうなのか。
「私に叱られたから・・・」と正直に言うと、事情を知った父は、「犬が物を噛むのは当たり前だ。そんな大事な物を床に置いておいたお前が悪い。」と言いました。
おっしゃる通りです。

「りく、姉ちゃん悪かったな。・・・仲直りの散歩に行こうか。」
まだ気落ちしている様子のりくを、「行こう、行こう」とせきたてて散歩に出ると、20分ほどでようやくいつものりくに戻りました。

 りくが何かを壊したのはその時だけです。