2013年2月26日火曜日

「人を見る目 ハンガリーにて」


 ブダペストで数日アパートを借りて夏の休暇を過ごした時のことです。市街にとまっている車のハンドル部分に、見慣れない装置が付いていることがあり、
「あれは何?」
とヘルベルトに尋ねると、盗難防止だと言います。タイヤを固定して動かないようにするようでした。私たちも車で来ましたので、駐車場をどうするかの問題がありました。

 選択肢は2つでした。1つは近くのホテルの地下駐車場。もう1つは空き地の駐車場です。ホテルの方は防犯カメラが付いていますが、車の出し入れは普通の機械式です。料金を支払って駐車カードを入れるとバーが上がって出られる方式のものです。空き地の方は人が2人いるのですが、なんと形容したらいいのでしょう、ずいぶんとみすぼらしい身なりの男性でした。また、こちらはスペースの問題で奥の車を出し入れする時のために、鍵を預けなければなりません。
 
 ヘルベルトによると、彼らはおそらくロマと呼ばれる人々だろうということでした。ジプシーという呼び名は必ずしも蔑称ではなく自称として用いる人もいるようですが、「『流浪の民』って本当にいるんだ・・・」と愕然とした瞬間でした。みすぼらしいというのは婉曲表現で、こういうと語弊があると思うのですが、今の日本ではボロに近い身なりでした。
「どっちがいいかな。」
と聞かれましたが、私は見当もつかず答えられませんでした。ちなみに料金はどちらもかなり高く、アパートの宿泊費に近いくらいでした。

 その後、ヘルベルトはもう一度両方の駐車場を見に行き、空き地の方に決めてきました。滞在中、駐車場の管理人の顔ぶれが時々変わっていましたから、何人かでシフトを組んでいたのでしょう。滞在中もブダペストを去る日も、車の管理や受け取りに問題はありませんでした。

 ヘルベルトにどうしてこっちの駐車場に決めたのか聞いてみると、
「防犯カメラがあっても盗難する人は止めることができない。空き地の方は24時間人がいるからね、いい料金払っているから、体張って車を守ってくれるだろうと思った。その点、あの人たちは信用できる。」
との答えでした。私に任されてたら逆の判断をして、今頃、車なくなってたかもしれないなあと思ったことでした。