ヨーロッパのカトリック教会にはなんだかよくわからない装飾品や聖遺物などがたくさんあります。日本ではほとんどお目にかかることがないので、私はそれら怪しげなものを興味津々で見物します。ヘルベルトが詳しく説明してくれるのでなおさら興味がわきます。
どこの教会だったか、小声で話していた時、おばあさんから注意を受けたことがありました。「教会はお祈りする場所だから」と。
会堂内でも小声での会話はこれまでどこでもありましたが、なるほどと納得して話すのをやめました。それからまた教会の小部屋を見ていくと、満願の御礼というのでしょうか、病気や怪我の回復を祈願して回復した人々が寄贈した快気祝いのプレートを飾った部屋がありました。手とか足とか治った患部をかたどった金属を埋め込んだプレートです。この部屋で小声で話しているときに、またしても先ほどのおばあさんに会い注意を受けてしまいました。ここは礼拝堂ではないのでよいと思ったのか、ヘルベルトは全く動じずに、「あ、こっちにも部屋がある。」と言って進んでいき、見学を続けました。
その日の夕方、私たちはカフェにいました。午後のまだ夕食までは間がある時間に、コーヒーを飲みながらくつろぐ時ほどゆったりできることはありません。互いの顔を見ながら、何も話さなくても、一日の残像に思いめぐらす時です。コーヒーを飲みながら、彼がポツリと言いました。
「あの人も一緒にコーヒーを飲む人がいたらいいのにね。」