2013年2月18日月曜日

「紅春 14」


   「りくは生まれて2カ月半でお母さんから離れてうちに来たんだな。」
ある時、父がしみじみ言いました。考えてみれば確かにそうです。私は急にりくが不憫になりました。

 また、東日本大震災の時のこと、兄は入院中の父をたまたま見舞っていて地震に遭いましたが、その時りくは一人で留守番中でした。老朽化した病院の天井や壁がパラパラと剥がれ落ちる中、「ここでお父さんと一緒に死ぬのか」と思うくらいの揺れだったそうで、結局父は入院を打ち切って、兄と一緒に自宅に戻ってきました。二人ともりくのことが心配でドアを開けると、りくは無事でした。それどころか、「危ないから、こっちこっち。」というしぐさを見せたとのこと、どこまでけなげな犬なのか。

 今では、ちょっとでも揺れるとすぐ父のもとに跳んできます。父は、
「一人で震災を耐え、怖かったんだろう。」
と言います。またまた、不憫になってしまいます。
 この二つのことが心にひっかかって、ついついりくには甘くなってしまうのです。