りくを見ているとこの犬川柳を思い浮かべます。父のおかげでりくは至れり尽くせりの生活を送っており、時々、「何か不足あるかい?」と聞かれていますが、あるわけがありません。
しかし、りくにもお仕事はあります。一つ目は、タイムキーパーです。私がいない時は、りくが朝父を起こして散歩に出ます。散歩は1日も欠かせないことなので大変ですが、父の健康維持に役立ってもいます。帰省中にりくと朝一の散歩をした後、7時近くになっても父が起きてこないことがあり、ちょっと怖くなって、「りく、お父さん起こしてきて。」と頼んだこともあります。この時はただの寝坊でした。私が家にいるとりくは子ども返りしてしまうようで、普段の実態が把握できないのですが、兄が起きてくる時間には廊下に出てゆき、階段の下で待っているといいます。
もう一つの仕事は、家を守ることです。いつも茶の間のカーテンの陰から外を眺め、天下国家の情勢を見極め、家にやって来る訪問者や宅急便等があれば吠えて父に知らせます。父は耳が遠く、玄関のチャイムが鳴っても聞こえないことが多いので、聴導犬としてりくは本当に大切な役割を果たしています。出入りの犬好きのガス屋さんをはじめ、外にいる時は近所の方々、通りがかりの人に至るまで、みなりくに声を掛けかわいがってくれます。
三つ目は、ホームドクターとしての役目です。りくの健気さやのんびりした様子を見ていると、たいていのことは「ま、いいか。」と思えます。疲れていてもりくと遊ぶと疲れが吹っ飛びます。
「りく、兄ちゃんに『タバコは体に悪いからやめて』って言ってね。」
「天気が悪い時はタクシー使えばいいのにね。りく、お父さんに言ってやって。」
本人を前に言いにくいことは、みんなりくに頼みます。りくは専属の精神科医です。なかなかの名医です。