2013年10月7日月曜日

「総合診療医」


 人間の体というのは不思議そのものです。原因不明の奇妙な病はごまんとあるし、どこを調べても悪いところはないのに本人にはまぎれもない痛みというものもあります。そもそも一人一人に起こっている症状が科学的に解明されている病気であっても、それは個々人の遺伝的要因、生活習慣、心因性のストレスなどが幾重にも絡まって起こるのでしょうから、原因も蓋然的にしかわからなくて当然、一言で言うと、生物のことがそんなにわかるわけがないと私はもう割り切っています。

 ただ、本当はなんとなくわかっているのです。まだ若い人ならいざしらず、半世紀を生きて体にがたが来たのなら、病の原因に思い当たることがあってしかるべきでしょう。友人が、
「一万人に一人しかならない病気のはずなのに、私のまわりには数名もいる。」
と言っていましたが、年齢を重ねれば交友関係もある種の傾向があるでしょうから、そういうことも起こるのです。50年も生きれば、人は自分にとって最良の総合診療医になっているはずです。

 私が医者に期待するのは、蓋然的な原因を述べたうえで、とりあえず症状を治めてくれることです。たいていの一時的な病は、たぶん時間さえかければ自然と治っていくものなのですが、症状を抑えてその時間を短縮してくれること、それだけで十分ありがたいと思います。

 健康は現代人の最大の関心事の一つで医学番組も多いですが、以前「ドクターG」という教化的な番組がありました。出演する医者は皆人格者で、人間は間違うものだという前提を踏まえ、医者として悩みながら使命を果たそうとしていました。彼らが信頼できると思えるのは人間の心身の脆弱性を理解し体感していることです。そして生活者としての視点をもち、人は仕事だけでなく家族や地域の中で生きているということを経験知としてもっていることです。カンファレンスに参加する研修医はそろいもそろって好青年、とにかく痛々しいほどにさわやかで、思わず「がんばってください。」と応援したくなってしまいました。人的資源に関して言えば、日本の医療の未来に希望が持てました。