2013年10月25日金曜日
「コンパートメント」
ヨーロッパの鉄道に初めて乗ったときコンパートメント車両の存在を知りました。知らない人と狭い一つの空間を共有するという車両の作り方は意外な驚きです。鉄道にしても飛行機にしても元々が船の発展型であることを考えるとうなずけ、クリスティをはじめ推理もので殺人の舞台になるのもわかる気がします。普通に「こんにちは」の挨拶をすればあとはいつもの過ごし方で構わないので、特に一等の場合はそれぞれ好きなことをしており、同室の人と会話がはずむなどということはまずありません。
ある時、とても空いた列車のこれまたがらがらの一等車両に座っていたときのことです。一人の大男が入ってきました。肌の色と骨格からして中南米の方ではないかと思いました。人種的偏見があるわけではありませんが、「これはヤバい。」と思いました。他にいくらも空のコンパートメントがあったからです。いくらなんでもおかしい、困ったなと思いました。社交的な人が、せっかく来たのだから旅先で出会った人と親交を深めたいと思うならそれもよいでしょうが、私はそんな日本でもしていないことを外国でしようとは思いません。危険だからです。
挨拶をし会釈した後は、なるべく目を合わさないようにして別のことをしながら、「さて、どうしたものか。」と考えていました。慌てて移動するのは変だから、しばらく乗って降りるふりをして車両を替わるのが一番いいかなと。やっと網棚に乗せた重いスーツケースの移動を思い、ちょっと憂鬱になっていると、助けがやってきました。検札です。車掌は一等の切符を持っていなかったその人をにべもなく追い出してくれました。ヨーロッパの人はこういうことのためにお金を出すのだと実感しました。