2013年10月21日月曜日
「アンデルセンの二つの話」
アンデルセンと聞くとなんだか落ち着かない気持ちになります。彼が書いた話の好みはそれぞれでしょうが、私が印象的な話を2つあげるとしたら、『火うち箱』と『ある母親の話』です。 『火うち箱』は子供の頃家にあった「少年少女世界の文学」のアンデルセン童話集に出てくる最初の話だったからであり、『ある母親の話』は同じくそこに出てきた最も悲しい話だったからです。
『火うち箱』は、魔女から火うち箱を取って来るように言われた兵隊さんが、特に悪いことをしたわけでもないのに話の冒頭であっさり魔女の首をはねてしまうという書き出しだったので、
「えー、この人が主人公でいいの?」
とびっくりしました。しかもそのまま、魔法の犬を使いながら大金持ちになり、お姫様を娶って幸せに暮らしましたという、二度びっくりの終わり方でしたが、一番目の犬、二番目の犬、三番目の犬と、目の大きさがだんだん大きくなっていくのが愉快だったのですべて帳消しになりました。
『ある母親の話』では、病気で死にそうな子供をさらって行った死神を、母親が我と我が身をなげうって目や黒髪を失くしながら必死に跡を追って行く場面はいかにもアンデルセンの筆致で、読んでいて切なさが募っていきます。人間の命が植わっている温室でついに死神と対面した母親が、
「子供を返してくれなければ辺りの花を引き抜く。」
と言って死神を脅すと、
「お前は他の母親を同じ不幸にあわせるつもりか。」
と答え、母親をどん底に突き落とします。
それから死神は、「幸福と祝福にあふれた花」と「不幸と苦しみの連続の花」を見せ、
「そのうち一つがお前の子供のものだ。」
と告げます。母親が絶望し、神に
「どうぞみ心のままになさってください。私がそれに背くようなことを言っても聞き入れないでください。」
と祈ると、死神はその子をあの世へと連れ去ってしまうのです。
こんな救いのない話があるでしょうか。それでも、子供心に「ここに書かれたことは人生の一面の真実なのだ。」ということはわかったのです。