2013年9月25日水曜日

「食堂車」


 人は閉じた移動空間の中でどんなことをして過ごすでしょうか。音楽を聴く、本を読む、パソコンや携帯があればどこにいても同じ過ごし方ができるかもしれません。車窓を眺めるというのも楽しみの一つでしょう。移動中に食事時を迎えるなら、何か食べることも楽しみになります。

 私は子供の頃、東京の祖父母の家に母に連れられてよく行きましたが、当時急行で3時間半かかったと記憶しています。特急で2時間半の時代でした。この3時間半というのは移動するのに実に絶妙な時間だったと今さらながら思います。乗ってわいわいしているとあっと言う間に1時間やそこらはたち、それからおもむろに駅で買ったお弁当を食べ、ゆっくりしていると、もう降りた後のことを考え準備をする時間になります。気持ちが切り替わるのです。

 東海道新幹線を使う地域ならいざ知らず、私は写真でしか食堂車を見たことがありませんでした。20年ほど前のある暑い夏、ザルツブルクからウィーンまで列車で移動した時のことです。ちょうど3時間半くらいかかったでしょうか。乗ってしばらくしてヘルベルトが「食堂車に行こう。」と言いました。おなかは空いていなかったのですが、私の目は輝きました。ああ、憧れの食堂車!

 行ってみるときれいな真っ白のテーブルクロスがかかったテーブルが何席かあり、とてもいい感じというか、普通のレストランと比べても遜色がありません。スープを頼みましたが美味。それから、流れゆく車窓の美しい景色を楽しみながらコーヒーとケーキでお茶にし、すっかりくつろげました。ヘルベルトが「食堂車に行こう」と言った理由もわかりました。この頃、ヨーロッパの列車にはほとんどエアコンがついていなかったのですが、ここだけ冷房が入っていて快適なのです。ここなら一等も二等もないし、それほど混んでもおらず、時間も有効に使えて大満足でした。

 リニア新幹線は東京ー名古屋間を40分で結ぶという報道があり、いよいよ超高速鉄道が現実化してきました。時間の観念が変われば生活全般が想像もできないほど変わるでしょう。一度くらい乗って驚異的な速さを体感してみたいものですが、一度でいいなと思います。気持ちの切り替えができないし、・・・駅弁が食べられませんものね。