2013年8月23日金曜日

「若冲展」


 7月下旬の日曜日、自転車で福島教会に行く道すがら、県立美術館のわきを通った時のことでした。思わず「えっ。」と思ったのは駐車場に車がいっぱいで、なおどんどん入ってくる車列を見た時でした。私の知る限り、ここが満車になったのは初めてです。ふと止まって看板を見ると、「若冲が来てくれました」と書いてあります。恥ずかしながら、私にはそれが人名であることさえわかりませんでした。しばらく後に、この絵画展は「東日本大震災で被災された人々、とりわけこれからを担う子供たちにぜひ見てほしい」とのプライス夫妻の強い願いから実現した若冲展であることを知りました。

 私もぜひ見たいと思い、先日それが実現しました。開館直後に行ったのですが、すでにチケットを求める人が並んでいました。仙台、盛岡を巡って最後の会場となったためか相当混んではいましたが、そこは東京の美術館とは程度が違い、譲り合ってガラス越しにじっくり見られる時間もありました。思ったより近づいて見ることができたので、私の視力でもそれなりに鑑賞することができました。

 展示作品は伊藤若冲だけでなく、長沢芦雪や酒井抱一など江戸時代を代表する画家の作品も数多くありました。江戸絵画どころか、私は日本画というものをちゃんと見たことがほとんどないのですが、気づいたこととして特徴的なのは、花なら花、動物なら動物が単独で描かれることが非常に少ないということです。それぞれの絵には、子供にも親しみやすいように子ども向けのタイトルがつけられており、例えば「ハチを見上げるサル」「白い象と黒い牛」「ヤナにかかったアユとカニ」「雪の積もったアシとオシドリ」などとなっています。何か一つにスポットライトを当て、それ以外は背景として描く洋画とは違うのがよくわかります。さらに、例えば「白い象と黒い牛」では、寝そべった象の体の上にはカラスと思われる二羽の鳥が、同じく寝そべった牛の足元には犬らしき白い動物が描かれているといった具合です。

 プライス夫人が「これだけでも被災地の方々に届けたい」と願った、一番有名な「鳥獣花木図屏風」の子ども向け作品名は、「花も木も動物もみんな生きている」となっています。屏風の左手には40数種類の鳥が、右手には29種類の哺乳動物が描かれて大変楽しい絵です。この絵を見ているうちに、子ども向け作品名にもう一字加えた方がよいと思えてきました。おそらくより正確には、「花も木も動物もみんなで生きている」なのでしょう。