2013年8月1日木曜日
「にわか発明家」
今まできちんとやったことのなかった家事を、勤めをやめてから真面目に取り組んでみることにしました。その結果、かなり改善点があるなとわかりました。ちょっとした不便を安価な工夫で改善できるかを考えるのはとても楽しい作業です。百円ショップに入り浸り、無限にある商品を眺めながら、「これ使えるかも。」「もうちょっとこんな形状の物ないかなあ。」などと考えるのは、まさしく小学校時代の発明工夫展出品以来。あれは結構好きだったことを思い出しました。
野菜をたくさんとる生活で不便を感じたのは「おひたし作り」。料理慣れしている人にはなんでもないことなのでしょうが、私は一連の作業を考えただけで、「ま、今度でいいや。」と思ってしまうような面倒くさがりです。
おまけにちゃんとした料理本には、「野菜を立ててまず根の部分をゆで・・・」と書いてあります。
「野菜を立てる?どうやって?」
この時点で私はつまづいてしまいます。キッチン用品を調査したところ野菜を立てる器具は見あたりませんでした。確かに私がいつもやっていたやり方では、根の部分のゆで加減に合わせると葉の部分は溶けそうになり、葉の部分のゆで加減に合わせると根の部分はちょっと堅いという不都合は感じていました。要は野菜がきちんと立たなくても、根の部分と葉の部分に分けてゆでられればいいのです。
そこでこの目的にあった調理器具を作ってみることにしました。詳細は省きますが、この作業を進めていくうち、どんどんいろいろなアイディアが出て、「すごい大発明だ!」と思うようなものができました。
「一生に一度のことだ、特許申請をしてみよう。」
と、ここからにわかに忙しくなりました。まず、特許庁のホームページから先行発明を調べるのですが、これが本当に面白い。いずれ私の発明もそう分類されるでしょうが、爆笑ものの発明も多く、「人間って本当に突飛なことを考えるもんだなあ。」とうれしくなりました。(私見では納豆の撹拌に関するアイディアは特に圧巻ですが、これについての決定打はまだ出ていないようです。)野菜を立てる調理器具も見つかりましたが、私の目から見るといろいろ不備な点が見つかり、自分の発明の方が断然優れていると思いました。
次に出願書類「特許願」の作成に取りかかりましたが、なんというかあれは一見日本語で書かれていますが、日本語ではありませんね。国語の先生ならいくら添削してもしきれないでしょう、本当にひどい日本語です。見よう見まねで一応書きましたが、なにしろ初めてなのでちゃんと書式に則って書けているのかどうかもわかりません。しかも、一度出してしまうと不備があってボツになっても1年半後には自動的に公開されてしまうのでもう特許性はなくなります。また、そもそもまだ誰も考えていないことの独創性を認めるのが特許なのですから、「これは便利ですよ。」などとブログなどで紹介してしまったアイディアは特許とはならないそうです。
出願書類の中の明細書などは、元々弁理士にしか書けないような書類なのですから、このまま出すのは危険と判断し、弁理士のチェックを受けることにしました。返ってきたコメントを見て愕然、修正点などが書かれた文書を読んでも何のことかわかりません。私の原稿を読んだ弁理士さんもあまりのひどさに困ったことでしょう。コメントを何度も熟読して書き直しましたが、それでもわからないところは、「どんな文書でも社会通念で理解できなければ意味がないはず。」と、自分で自分を納得させ、完成させました。本当はもう一度チェックしてもらうべきなのでしょうがそんな余裕はありません。チェックだけでもかなりの高額なのです。
また出願書類の中に「図面」というのがあるのですが、これも自分で描きました。描き方のルールも詳しく決まっているようですがもう適当です。ただ何を表したものかわからないと困るので兄に見てもらい、「このことは絶対口外しないで。」と頼んだら、「そんなに暇じゃないよ。」と言われました。
申請書類ができたのでいざ霞ヶ関の特許庁へ。入るとき形の上だけのこととはいえ荷物検査があるのにびっくり。産業スパイでもいるのでしょうか、いえ、私の発明はそんなたいそうなものではございませんって。収入印紙ではなく特許印紙なるものがあるのを初めて知りました。指定された金額を貼って窓口へ。
「初めてなのですが・・・」
「構いませんよ。」
という不思議な会話の後、丁寧に話をしてくれ提出にこぎつけました。一見してわかる書き違いを指摘してくれ、その場で訂正や加筆。
「あ、この部分手書きだけどこんなんでいいんだ。」
と思いました。
「これでよいでしょう。」
とのことで、表紙をコピーしに行き、出願日の証明を押してもらい終了。うそみたい。これで私のアイディアは晴れて「特許出願中」となったのでした。まあ楽しいと言えば楽しかったな。
この後、3年以内に審査請求(これがまた高額)をすれば特許性があるかどうか長い時間をかけて審査されるそうですが、かなりの割合で特許性は認められず、1年後くらいに「拒絶理由通知書」というのが届くとのこと。しかし、それに対して異議申し立てをすると結構認められることもあるらしいのです。
このたびの発明は葉物野菜に特化したものだったのですが、ブロッコリーには対応しきれないことに気づき、そこから大きな局面が開けるアイディアへとつながるのですが、その話は次回。葉物野菜調理器具は斬新すぎる(イノベイティブではあるが一般には受け入れられにくい、ただ私個人としてはとても便利に毎回使用しています。)のと、材料が手に入らなくなったので実用化に至っていません。いくつか作った見本(自分としては完成品ですが)は、今のところ超レアものとして物好きな人に引き取ってもらうしかないなと思っています。