私の好きな(?)トンデモ本の類です。著者ジャン・ラスパイユは、いまだに存在すること自体驚きの王政主義者の領袖ですが、考えてみると全くありえない話ではないのです。世界史の授業で習ったように、教皇権の急速な衰退が後に教会の大分裂を招いたのは事実であり、二人の教皇の正統性が政治的力学上の問題であるなら、今のヴァチカンの現実もいわば偶然の産物にすぎないと言えます。
ヴァチカンからの刺客の手を逃れ、もう一人の教皇(大分裂によって生まれたアビニョンの教皇)の遺志を継ぐ系譜、自前の神学的教育機関さえ持たないこのブノワと呼ばれる一派は、既存のセミナリオで教育を受けた後、突然姿を消すというスパイもどきのやり方で自分たちの教皇を叙階してきたというのです。その名を口にしただけで火刑という時代も今は昔、ブノワは600年間に32代の教皇に受け継がれた後、最後の末裔が死んだのが1994年であるとのこと。しかも、ヴァチカンからの使者に看取られての最期だったというのです。にわかには信じられませんが、現実とは何かと考えると足元に浮遊感が漂ってくることは間違いありません。