2015年11月14日土曜日

「アクション映画の秀作」

 最近テレビで「るろうに剣心」3部作の映画を放映したのを機に、少しは世間で流行っているものも知っておいた方がいいかなと思い、あまり期待もせずに見たところ、何年か前に若い女性が急に「かたじけない」とか「拙者は・・・」とか言い出したわけがわかりました。アクション映画というのはほとんど見ないのですが、以前機内であまりに暇なので見た「300 (スリーハンドレッド)」以来の見ごたえのある作品でした。(「300」はその名の通り300人の鍛え上げられた戦士と共に100万ともいわれるペルシャ軍と戦った(テルモピュライの戦い)スパルタのレオニダスの雄姿を描いたものです。暴力満載で野蛮極まりないおどろおどろしい映画ですが、ほとんど男子新体操のような一糸乱れぬ動きの部分があまりにすごかったので、戦闘シーンをつい2回も見てしまったのを思い出します。この戦闘ではスパルタ軍300名は敗死しますが、その後最終的にペルシャ軍はギリシャから撤退するのですから、ヨーロッパをアジアの侵略から守る礎となったこの戦いはヨーロッパ人の心に深く刻まれているのでしょう。この映画を見ればどんなに経済危機がひどくても簡単にギリシャを切り捨てられないEUのジレンマがよくわかります。

 私が最初に意識したアクション映画は言うまでもなくブルース・リーのものです。今回見た「るろうに剣心」の1作目は大業なスペクタクルと明らかな悪役の存在からしてそれを彷彿とさせるものでしたが、ストーリーの繊細さは日本の方が優っています。そしてやはりチャンバラは日本人のDNAに染みついたものなのか、カンフーよりしっくりくるのは確かです。やっぱり拳法よりは剣術です。

 この映画を見てあらためて認識させられたのが、明治初期というのはまさにチャンバラすなわち内乱の時代であったこと(西南戦争は明治10年のこと)、おそらく廃刀令など始めはまったく笑うべきもので誰も守っていなかったこと、薄氷を踏むような綱渡り的展開の中で、ひょっとしたら幕府側が政権を手中にする可能性もあったこと、その場合欧米列強の植民地化を阻止できたかどうか何とも言えないが逆に自らの立場を勘違いせずに国際社会でもう少しましな世渡りができていたかもしれないこと、いずれにしても幕藩体制を支えた武士たちが新時代を担ったこと、斎藤一の転身に見られるような、大量に失業した武士がいかにして食い扶持を稼ぐかという実際的な問題が大きく存在していたこと、国の統一と引き換えに実際に多くの者が血を流す思いで平和を選び取ったのだということ(この点、アメリカとは比べものにならない長い間、武器を携帯していた日本人が自ら武装解除したことの意味は大きいと言わざるを得ない。)、これらはこれからの日本を考える手立てになるでしょう。

 何はともあれ、この映画の成功の大半は演じた俳優の魅力に帰せられてしかるべきでしょう。主役を演じる俳優に、ピュアでありながら健全すぎてはならない、ちょっと陰がなくてはならないがありすぎてもいけない、おっとりしすぎてはいけないがある種の高貴さがなくてはならない(美男ではあってもアラン・ドロン的労働者階級の顔立ちではならず、この点でちょっと顔立ちの似ているジャニーズの某とは一線を画している)、佐藤健を起用した監督はさすがです。

 主人公は新しい時代を来たらせるため討幕側に立って幕末に相当な人斬りをしたのですが、今ではそれを悔いて「殺さずの誓い」をたてています。だから携帯する刀は「逆刃刀(さかばとう)」という、相手に向く刃が峰になっている(つまり刃が自分の方を向いている)刀なのです。剣で生きてきた人が明治新時代になって十年、半生を振り返りつつ償いをしていくというのが主眼の話なのでなかなか考えさせられるのです。主人公にとって生きていくということがそのまま償いなのです。普段は物静かな人ですが、平和な世が乱されそうになると逆刃刀を取って戦う、その戦い方が見どころです。相手は皆この世の犠牲になったような人ばかりで、気の毒な境遇なのですが倒さざるを得ない、殺さずに倒すのです。そしてその時に、これからどう生きるべきかは各々が生きる中で考えていくしかないことを告げるのです。

 独りよがりな勘違いではないと思うのですが、この主人公は日本という国を体現しているのだろうと思います。「殺さずの誓い」と「逆刃刀」は日本国憲法そのものです。第3作の最後で憎悪と暴力の権化であっ人物、志々雄を倒した後、静かな日常に戻って終わりになります。庭の美しいもみじ葉を薫殿(町道場、神谷活心流の跡取り娘で、モデルは北辰一刀流免許皆伝の千葉佐那らしい)に手渡すシーンです。
「その葉が一番美しい。・・・・こうやって生きていくでござるよ。」
「生きて。新しい時代を。」
「薫殿、ともに見守ってくださらぬか。」
「えっ。」
薫殿の驚いた顔と剣心のはにかんだ顔で幕となる。
やられたという感じでした。これが今の若い日本女性にとっての(そしておそらく若い男性にとっても)理想の幸福であるといって過言ではないのだろうと思います。大事な人と退屈ではあっても静かに穏やかな日々を過ごしたい、ただそれだけ。これが映画が大ヒットした理由でしょう。アクション映画の完結シーンはやっぱりこうでなくちゃ。世間で流行る作品にはそれなりのわけがあるのですから、少しは関心をもって触れてみるものだなあと思ったことでした。