2015年7月28日火曜日

「パロディの傑作」

 自民党制作のアニメ動画「教えてヒゲの隊長」をもじった「教えてあげるヒゲの隊長」がネットで本家本元を上回る再生回数で話題を呼んでいます。試しに見てみたら抱腹絶倒でした。

「あれ、あかりちゃん?」
「いや、知らないし、電車で急に話しかけないでほしいんだけど。」
に始まる会話で、あかりちゃんはまず、おっさんが若い女の子に教えるシチュエーションそのものを批判します。作成者不明とのことですが、これを作ったのは女性でしょうか。ヒゲの隊長こと佐藤正久元自衛官の福島なまりの話しっぷりが、あかりちゃんのクールな口調と対比され、なんともいえないおかしさを醸し出しています。
元版の隊長の言葉、「そりゃ大変だ」「そんなことない」「おかしいよね」「そんなに簡単じゃないんだ」等をそのまま切り取って、あかりちゃんとの会話に埋め込んで、話を逆転させているのも笑えます。You Tubeを見ていない方のために部分的に引用します。出だしから圧巻。

「どっかの与党がわけわかんない法案、強行採決しようとしてるわけよ、知ってた?」
「そりゃ大変だ。」
「じゃズバリ言うけど、今回の安保法制、憲法違反だよね。」
「そりゃ大変だ。」
「チョー大変だよ。この時代に立憲主義の否定なんて。どこの独裁国家って感じ。ありえない。恥ずかしすぎて国際国家に顔向けできないんだけど。」
「そんなことない。」

あかりちゃんは一つ一つ安保法案のおかしな点を指摘していきます。
「国民の8割が説明不足、6割が反対って言ってるのに、理解が得られなくても決めるって、首相も高村さんも言ってたよね。」
「国民に面と向かって説明し、改憲したいならしたいで堂々と筋通せよ。」
「ミサイルの照準が向けられてるのは冷戦の時から変わってないんだけど、何のために危機感あおってるの。」
「現実にミサイル撃ってきたら、個別的自衛権で対応できるでしょ。あんたたちが無理やり押し通そうとしてる集団的自衛権の話とは関係ないよね。それにミサイルを撃たせないようにするのが政治なんじゃないの?」
という感じで、自衛隊の飛行機の緊急発進回数が10年前の7倍といっても冷戦期にはそれ以上の回数だったこと、安倍政権になってスクランブル回数水増し疑惑さえあること、尖閣諸島付近の船に先制攻撃をしたら国際法上相手に正当防衛権が与えられることなどを述べながら、バッサバッサと隊長を論破していきます。このあたりからが第二の山場。

「北朝鮮も核実験を繰り返しているし、最近はテロもサイバー攻撃もほんとに深刻なんだ。」
「サイバー攻撃とか言ってるヒマあったら、まずは年金の情報流出の件なんとかしてくんない?っていうか、テロって戦争に参加するから狙われるんだけど、あんたたちは戦争に参加できるようにしたいんだよね。自分の言ってることが矛盾してるのわかってる?」
「私たち日本人もいろんな脅威にさらされているんだ。」
「狂った政権が一番の脅威だってのは、私もビックリだけど。」
「そこで問題なのはね、今ある法律ではね、いくつかスキマがあって、万が一の事態に対応できないということなんだ。」
「その前に政府の答弁のスキマもなんとかしてくんないかな。」
その後、アメリカの軍艦で邦人避難時や、ミサイルでの日本攻撃時に応戦するアメリカの軍艦を守れないとか、その設定がいかにおかしいかを説いていきます。
「いやだからさ、日本が狙われてるんだったら個別的自衛権じゃん。このかなり無理ある設定をなんで集団的自衛権を説明しようとしてるの、おかしくない?」
「おかしいよね。」
「あんたの言ってることがね。」

大爆笑、腹を抱えて笑えます。いよいよさらにこの問題の核心に迫っていきます。
「日本人の安全を守るため、いろいろな法律を点検してスキマを防ぐこと、そして協力し合って日本を守ることが大事。」
「そうね、それ自体否定しないよ。」
「そうすることで抑止力がさらに高まり、戦争を未然に防ぐ、それが平和安全法制の目的なんだ。」
「直前までいいこと言ってんのにね、なぜそのための安保法制って説明には全くなってないのが、マジ怖い。むしろ、つけいるスキマを増やすことになるだろうね。」
「抑止力が高まれば戦争が起きにくくなる。」
「抑止力って言葉、ほんと好きだよね。対テロ戦争にそんな抑止力なんて利かないし、アメリカ見てみなよ。日本は今まで戦争しない国として様々な平和貢献をしてきた。特に紛争地域、貧困地域における民間レベルの活動はほんとに大きな信頼を得てる。それこそが一番の抑止力でしょ。なのにそんなことも無視して、無駄なマッチョイズムを政治に持ち込むわ、そのために憲法違反まで犯して突っ走っちゃうわ・・・。あんたんとこのボスに一言伝えてあげてよ、『狂ってますよ』って。簡単でしょ。」
「そんなに簡単じゃないんだ。」
「でしょうね。」
「でも、何重にも備えることは大事。」(ここで隊長の姿が増殖する。)
「増えてんじゃねえよ、キモいな。」

そして、積極的に国際社会の責任を果たすことを強調する隊長に対し、あかりちゃんはそれを肯定しながらそれは戦争に参加することとは別物だと言い返します。そして人道的な貢献の幅を増やす(戦争参加)ことの重要性を説く隊長に、今現在現地で働く日本人NGOや医師たちがこの改悪法案に猛反対していることを告げます。最後に、政府が狙っているのは経済的徴兵制、貧困に陥った若者が自発的に自衛隊に入隊するよう仕向けることであること、選挙権を18歳に引き下げたのもそのためであるとあかりちゃんは指摘します。(そうか、国立大学の人文社会学系学部の廃止もここにつながってくるわけか。)

「絶対にあり得ない。だって、だって、だって・・・」
と繰り返す隊長は、破綻している論理を壊れたレコードのように繰り返す安倍首相を髣髴とさせます。
「ほらね、その先言えないでしょ。図星だもんね。あんたたちが間抜けなことばっか言ってる間に、国会前は法案に反対する人であふれかえるよ。もし来てくれたら、主権在民っていう中学で習う単語について教えてあげるね。待ってますよ、佐藤正久議員。」
「ははっ、お手柔らかに。」
See you.

お見事です。これほど秀逸なパロディはめったにありません。細部に通じており全体もよく見えており、問題の争点をスキマなくカバーしています。冷静にここまでできるのは政治学者でしょうか。そしてユーモアがあって女性?そんな人いたかしら。