2021年4月20日火曜日

「不確定な社会における予約とは」

 日本の緊急事態宣言は物理的に交通を遮断するものではないものの、心理的に移動の制限を求められるのは確かです。そのためたびたび出される宣言によって、旅客運送業は長期にわたって苦境に立たされています。一方、利用客が極端に減っているせいで、顧客にとっては運賃の大幅割引という恩恵が受けられる現状もあり、これはコロナ禍にあってもどうしても移動しなければならない人にとっては有難いものです。

 JR東日本の大人の休日俱楽部の特典は、50代まではあまり使い出がなく、3割引きとなる60歳からが出番だと思っていました。ところが、コロナ禍では格安のeチケットは1カ月前なら半額からあり、タッチだけで乗り降りできる手軽さも手伝って、会員としてのメリットの活用に関しては依然として「待った」の状態です。半額のeチケットが売り切れた後も、35%引きのeチケットがあれば、これはほぼ自由席券の大人の休日倶楽部と同料金です。

 ここで生じるのが予約についての利便性の問題です。指定席込みのeチケットは遅れずに乗るにはどうしても早く駅に到着しがちです。予約した新幹線を待つ間にもっと早い列車を何度見送ったことでしょう。その点、駅に着いて最初に来た列車に自由席券で飛び乗るのは本当に気楽です。また、地震の影響で運休や遅延などの場合にも払い戻しの面倒がなく、日をずらすなり高速バスに切り換えるなりすればいいだけなので自由に予定を変更できます。予約というシステムは安定した社会、物事が確実に進む平時にあってこそ威力を発揮するもので、物事が順調に進まない場合は予約の解除および後始末にかかる労力は膨大なものとなります。みどりの窓口で、各顧客の個々の事情説明や果てしなく続く質問に笑顔で丁寧に応答する職員には本当に脱帽ですが、これらは本来しなくてよいはずのもの。運休や遅延が起こるとまず窓口での状況把握が必要になるため、自分で予約を変更できるeチケットの強みが無効になってしまうのです。今は行動の自由度という利点が費用の高さという欠点を上回る時代なのかもしれません。

 新型コロナウイルスのワクチン接種が始まった日、或る自治体の接種予約者のうち2名が会場に現れず、ワクチンが無駄になったことが大々的に報道されました。詳細は知りませんが、250名のうち来られなかったのが2名だけというのは表彰もんだなと思ったのは私だけでしょうか。高齢者ともなれば体調が急変することもありましょうのに、99%以上の人が予定通り接種できたとは本当に律儀で真面目な対応と言うべきです。これはむしろ、余った場合のワクチンの活用法を決めておかなかったことが手落ちで、「公平性を担保できない」との理由でその先を考えていなかったとするなら、役所ではあまりに硬直化した平時の対応が身体化しているのではないかと思います。通常業務に加えての仕事で役所も過酷な環境になっているのは承知していますが、外国からの輸入頼みの貴重なワクチンであればこそ、踏ん張って様々な事態に備えるシミュレーションを作成しておいてほしい。何しろ今は緊急事態、非常時なのです。それにしても、緊急事態が日常化している今日、未来に対するそこはかとない不安はそのまま予約というシステムの揺らぎにつながっています。