2021年4月14日水曜日

「紅春 176」


  兄からとんでもない話を聞きました。或る朝、階下に降りて行ってもりくがまだ寝ている。揺り動かしても起きない。ハッとして、「りくは一人で逝ったのか」と一瞬頭が白くなった時、りくがむっくり頭を上げた・・・。

 「なんてこと言うんだ」と思いましたが、兄は兄で自分が看取る気でいるのですから、普段いない私が軽々に口出しできることではありません。兄はりくをなでながら、「りくは兄ちゃんがいる時に逝くんだぞ」と話しかけていました。

 まだまだ元気なのですが、りくの睡眠と覚醒の境界が判然としなくなってきているのも事実です。私が帰省してもいつも寝ており、気づいて喜び勇んでくることはなくなりました。しかし先日は、荷解きをしてからりくに声をかけようと思っていたら、いつのまにかりくがぬっと横に現れ、私がぎょっとして「あら、りく起きたの?」と声をかけると、「姉ちゃん、なんでいるの?」というように、不思議そうな顔でこちらを見ていました。

 りくを外に出して一緒に庭仕事をしていた時、「あれ、りくどこだろう」と見たら、ロープが木にからまって動けないのに、声も出さずにじっとしているのです。「りく、『ワン』して姉ちゃん呼ばなきゃダメでしょ」と言って解いてやったのですが、以前ならうるさいほど鳴いて知らせたのにと、その変わりように悲しくなりました。と同時に、注意して見ていないと大変なことになりかねないと気を引き締めました。

 時々何の拍子か、回路がつながったように、昔の活発な動きを見せてぬいぐるみを振り回したり、部屋を駆け回ったりするのを見るのはとてもうれしいですが、やはり全体的な衰えは明らかです。愛しいものの日々の様子を見て、兄のようにこれからのことを思い描いてしまうのも無理からぬことなのです。