移民政策がうまくいった国はないと言われています。ドイツの場合は、第二次世界大戦後の復興期に労働力不足を補うため、トルコから一時的に呼んだ単純労働者が家族と共に移り住み増大、近年は20年間で倍増し、なんらかの移民的背景を持つ人は住民の5人に1人という状況になっています。ドイツ社会になじんで生活できれば問題なかったのでしょうが、政教分離や男女同権といったドイツ社会の根幹に関わる事柄が、まさにイスラム教と相容れないものであったため対立は激化しています。今や元来のドイツ人が、イスラム教徒によって居場所を脅かされるような感覚をもっているのです。
日本も人口減少により、将来移民を受け入れることなしには社会が維持できないと予測されていますが、ここは考えどころです。受け入れる移民のスタンダードを広く示しておくとしたら、これまでの失敗例に鑑み、その基準は経済上の理由だけのその場しのぎのものであってはならないと思います。人は必ず年をとるということ、やがて自分で動けない時が来るということ、抑えがたき望郷の思いを抱くかもしれないということ、人の最期は尊厳あるものでなければならないということ・・・。こういうことを考えると、移民問題はますます難しいものとなってきます。本人にとっても日本社会にとっても不幸な事態を招かないために最も重視すべきは、移住を望む人がそれ相応に日本社会を理解できているかどうかです。審査において、最低でも日本語による作文と面接が必要だと思います。なぜ日本に移住したいのかや日本社会に貢献できることについて、ある程度話したり書いたりできることは必須条件とすべきでしょう。もちろん、すでに日本に対しサポーター的見解を英語または母国語で発信しているといった実績がある方はこのような審査を免除して構わないでしょう。
などと考えていたところ、2015年から改定された入管法が実施されていたことを知りました。新たに「高度専門職」という在留資格が創設され、この資格を持って一定期間活動した外国人を対象に無期限の在留期間を与えるという改定です。これまで在留期間は、永住者を除けば、3か月から5年の範囲でしたからこれは相当な優遇措置です。どの国家も自国の益に資する外国人を受け入れたいと思うのは当然ですが、入国管理局のホームページには次のようにあります。
平成26年の通常国会において、「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律」(平成26年法律第74号)が可決・成立し、平成26年6月18日に公布されました。この改正法は、経済のグローバル化の中で、我が国の経済の発展に寄与する外国人の受入れを促進するため、高度の専門的な能力を有する外国人に係る在留資格を設ける等の在留資格の整備を行うほか、上陸審査の手続の一層の円滑化のための措置等を講ずるものです。
「経済にだけ限定する必要はないのに・・・。」と思いつつ読み進めると、その後に、高度の専門的な能力を有する外国人材受け入れのための「高度専門職」在留資格の創設と、クルーズ船の外国人乗客を対象として、簡易な手続で上陸を認める「船舶観光上陸許可」制度の創設の説明が出てくるのですから、結局露骨にカネの話なのだとわかって本当にがっくりきます。これが、経済上の理由だけのその場しのぎのものでなくて何でしょう。富裕な者や高度に専門的な能力をもって日本に来る人なら、日本社会への理解もあるはずだということなのでしょうか。
移民について考えましたが、実のところ移民問題というものは起こらない気がします。移民問題の発端は労働人口の減少ですが、そもそもこれを補う人工頭脳が今後急速に普及し、十年から二十年で人間の仕事の半分が代替されるだろうと予想されているからです。こうなると、もはや求められるのは人間でさえないということですから、これはこれで対処を要する別種の難問です。