この写真は8月なかばに「りくにも夏休みを」ということで、茂庭のダムを見に行った時の写真です。この時はよかった。この日に帰れたらどんなんにいいことか。りくに未曾有の事態が起きたのは翌々日でした。午前3時頃、「キャン」という聞いたことのないりくの鳴き声が聞こえ、「どうしたの。」と声をかけると、けたたましい「キャンキャン」が始まったのです。どこか痛いのか、何があったのかまったくわからず、ただならぬ発作という感じでずっと止まりませんでした。兄もすぐ降りてきて小一時間ほどあやしながら過ごしました。夜が明けて、その日はお盆真っただ中の日曜でしたが、やっている動物病院をさがして連れて行きました。あれからずっと鳴き声は「キャン」で「ワン」が一度も出ていません。獣医の先生はとてもよい方で、どこが痛むのか丁寧に診てくださいましたが、診察室ではりくに異常は見られず、とりあえず痛み止めを打ってもらい家に帰りました。
しかし、翌日も翌々日も発作がたびたび出るようになり、どうもパニック症状のようなものではないかと思うようになりました。何かでスイッチが入ると、キャン鳴き、動悸、体の震えなどが止まらなくなるのです。散歩中にこれが起きた時は生きた心地がしませんでした。原因として思い当たるのは、というよりもいつもと違うことをしたのはそれだけなのでそう考えるしかないのですが、前日に連れて行った盆踊り見学です。前にも行ったことはあったのですが、今回何らかの理由で怖い体験として残ったのではないかと思うのです。土手下の会場までは降りず、上から眺めただけで花火の始まる前に帰ってきたのですが、少し遠かったし夜だったし結構な人出だったのがいけなかったのではないか。りくにも夏らしい体験をと思ったのがあだになりました。りくも歳をとってきているので、少し長めの散歩とかいつもと違う体験とかに対応できなくなってきているのかもしれません。行かなきゃよかったと心底悔やみました。りくには本当に申し訳ないことをしました。
発作が始まる原因はわかりませんが、散歩から家に帰ろうとしたり、外から家に入れようとしたり、家の中で一緒にいる時その場をちょっと離れようとしたり、りくにとって何かいやだと感じることが引き金になるのかもしれません。兄にはべったり甘えていますが、恐怖体験をしたとき一緒にいた私にはちょっと距離を置いている時があります。記憶がよみがえるのかもしれません。そのことでかなりへこみましたが、私の具合が悪い時などはちゃんとわかって一緒にいてくれたりします。
数日後私は東京に戻らなくてはなりませんでしたが、りくが怖い記憶を忘れるにはその方がいいかと思いました。私とともにフラッシュバックが起きないとも限らないからです。しかしその夜、発作がひどく出て再びりくを病院に連れて行ったと兄からメールが来ました。レントゲン、血液検査異常なし。やはり精神的なものなのか。獣医さんの話では、「発作は出る時には出る」ということなので、兄は発作以来下の別室でりくと一緒に寝ていたのですが、これまで通り二階に戻り別々に寝ることにしたそうです。東京で私は臨戦態勢でいつヘルプの要請がきてもいいように荷造りしたままでした。メールでりくの様子を尋ねると、本当に少しずつではありますが回復してきているようで、ワン鳴きも復活し、猫や郵便屋さんにも反応するようになってきたとのことでした。
この三週間は悪夢のようでした。心の中でずっと、「りく、ごめんな。姉ちゃんが悪かった。」を繰り返していました。兄は、長めの散歩などで筋肉痛や関節痛が起きている可能性も捨てきれないと思っているようですが、いずれにしてもりくの加齢は侮れないということを痛感しました。人間で言えばもう還暦なのですから、やはり心身ともに思いもしなかったことが生じるのでしょう。私の感触では、パニック症状は圧倒的に「雄」に起きやすいのではないかと思います。繊細な柴男の中でもりくは特に繊細な方だと思います。あっという間に壊れてしまうさまを見て震撼しました。ドイツに住む例の柴女だったらこうはなっていなかったでしょう。目新しいことをするより毎日の習慣を淡々と行いゆっくり過ごさせてやりたいと思います。再発の可能性を考えるとまだまだ安心できません。