テレビから遠ざかってラジオ生活になり、気づいたこととして、「ラジオはメディアの中ではストレスが少ない」ということがあります。テレビと違い、「今日のニュースの項目はこちらです」といった指示語が無いので聞いているだけで完結するからばかりでなく、「無駄に心が乱されない生活」ができると感じます。ラジオ生活になるまでは、テレビがこれほど煽情的なメディアとは思っていませんでした。何よりラジオのアナウンサーや出演者は抑制が効いていて、気分よく聞いていられます。私の感じとしては、ニュースも簡潔で変な解説が無いし、正確な事実だけ教えてくれます。朝は天気予報が頻繁に聞けるし、交通情報も詳しくわかり、どこへ行くわけでもない全くの外野なのに、「へえー、今はあのへんが渋滞か」などと、なんだか楽しい。また、ラジオとの違いで顕著なのは、テレビは犯罪のニュース報道が多すぎるということです。テレビで煽り運転の詳細などを聞いて「世の中にはいろいろな人がいるんだな、気を付けなくちゃ」と思うことは確かにありますが、四六時中事件の報道があると、日本中で毎日凶悪犯罪が起きているのかと誤解を与えている面もあるのではないでしょうか。きっと視聴率が取れるのでしょう。あくまで「日本の犯罪発生率は世界でも最低レベル」という事実を踏まえておかないと、こちらも不安を文字通り煽られてしまいます。
とはいえ、犯罪は世の中を知る格好の教材です。最近の話題はアブ町(耳で聞いていると感じが分からない。阿武隈川の最初の二文字かな)の誤送金事件でしょう。「フロッピーってまだあったのか」とまず大笑い、それからこの前時代的記憶媒体が公的機関で使用されているという問題の根深さを大いに考えさせられました。当初はあまりに面白いので、朝晩のニュースを注意して聞いているだけでしたが、誤送金されてしまった人(この時点では被害者?)のことがわかるにつれ、ほとんどテレビはお祭り状態になっていきました。事件に関わる報道を見守っている自分も含めて、「こういう視聴者がいるからますますテレビは煽情的になるんだな」と反省しつつも、展開の早い事件をフォローし続けました。
誤送金された人が全額ネットカジノで使ったのかどうかの真相はわかりませんが、被害者が相当怒っていたのは確かです。想像ですが、たまたまではなく自分が狙い撃ちされたのではないかとの疑惑、町の態度が次第に高圧的になり、侮辱を受けたと感じられる出来事等が高じた結果、犯罪の要件を明確に自覚しつつ、「打撃を与えてやろうと思った」というところまで行ってしまったのかもしれません。そして、こういう心の動きは普段から不遇感がある人には珍しくないことかもしれないのです。本来小さな町なら、「今度から気を付けてくださいよ」「はい、すみませんでした」で済むことだったことかもしれません(町に甘すぎだけど)。、もちろんどんな場合でも犯罪に手を染めない人がほとんどなのでしょうが、こんな形で試されて罪を犯してしまった若者が気の毒です。
今回の騒動の最も大きな成果は、当初の「回収はほぼ無理だろう」との見通しに反し、9割以上のお金が戻ってきたことにより、国税徴収法の威力が世に知らされたことです。現場実録「税金滞納で家財を差し押さえ」といったテレビ番組からの情報とは違い、場合によっては「超過差押の禁止」も何のその、何が起こってもおかしくない国税徴収の対応があり得るとのメッセージを、日本の全住民は衝撃をもって受け取ったことでしょう。(国税徴収法では差し押さえる範囲について、第六十三条に「徴収員は、債権を差し押さえるときは、その全額を差し押さえなければならない。・・・」とあるのです。)記者会見で中山弁護士は、「(決済代行業者が)なぜか満額を払ってきた」ととぼけたことを語っていましたが、国税徴収法以外に「犯罪による収益の移転防止に関する法律」や「マネー・ロンダリング及びテロ資金供与対策に関するガイドライン」などを駆使して関係各所に対応を求めたことは間違いなく、今回のアッと驚く結果となりました。恐らく日本の住民に「絶対に税金は滞納してはならない」と印象付け、また「税金滞納者と取引きしたら大変なことになる」と、グレーゾーンで商売をしている業者を心底戦慄させたことでしょう。しかも、この法律は地方税や社会保険料にも準用されていて、その徴収にも使われているようです。国民年金保険料の未納者などは少なくないと言われていますので、結局、今回の事件で一番得したのは国税庁をはじめ国家が決定したお金の徴収権を持つ官公庁だったのではないでしょうか。