コロナ問題を考えていて、厚労省の2020年の人口動態統計を調べたところ、5歳刻みの年齢別死亡原因が第1位から第5位まで載っているのに気づきました。この中にコロナによるものはありませんが、インフルエンザが死亡原因の第5位になっている2つの年代層がありました。1歳から4歳までと5歳から9歳までの子供たちです。合計で10万人当たり30人の死亡数なので、この年代の全体数がわかればインフルエンザによる死亡の実人数もおおよそわかります。少子化の進行が進んでいるので、1歳から9歳の子供の数はおそらく900万人に満たないとして、それでも2700人近くはインフルエンザで亡くなったことになります。季節性のインフルエンザは冬が流行の時期ですが、仮に10カ月で割ったとしても一日9人近い死亡者数です。これだけ10歳未満の子供が死んでいても、インフルエンザの場合それにフォーカスされなかったのです。今、私は不明を恥じています。
さらに見ていくと、40歳から上の世代では、90歳~94歳の心疾患、95歳以上の老衰を除いて、死亡原因の第1位はすべて悪性新生物〈腫瘍〉だということがわかりますが、これは思った通りです。ところが、その間の世代、10歳から39歳までの死亡原因に目が釘付けになりました。この層の死亡原因の第一位がすべて「自殺」だったのです。思わず、文字通り腰が抜けた感じで、すとんと尻もちをついていました。なんと痛ましいことでしょう。まさしく、学校や社会で学んだり働いたりするど真ん中の世代でおびただしい数の人がじさつしているのです。ここにこの国の不幸が端的に示されています。コロナ問題など吹っ飛ぶほどの衝撃でした。
しばらく呆然とするうち、頭に浮かんだのはなぜか『グレート・ギャツビー』の冒頭部分でした。
In my younger and more vulnerable years my father gave me some advice that I've been turning over in my mind ever since.
'Whenever you feel like criticizing anyone,' he told me, 'just remember that all the people in this world haven't had the advantages that you've had.'
ぼくがまだ年若く、いまよりももっと傷つきやすい心を持っていた時分に、父がある忠告を与えてくれたけれど、爾来ぼくは、その忠告を、心の中でくりかえし反芻してきた。
「ひとを批判したいような気分が起きた場合にはだな」と、父は言うのである「この世の中の人がみんなおまえと同じようには恵まれているわけではないということを、ちょっと思いだしてみるのだ」 (野崎孝訳)
「生まれる国や家庭を選べる人はいない」という、言い古された言葉がこれほど心に迫ったことはありません。どこにもセイフティ・ネットがなければ、まだ人生の基盤を築いていない、あまりに脆い年齢層の一部は、いつしか死に飲み込まれてしまうのでしょう。痛ましいというほかありません。この歳まで生きられて、そんなことも知らなかったとは、私は本当に大馬鹿者です。