2022年12月29日木曜日

「独身男短命説を考える 2」

  前回は、「未婚男性の3割近くが65歳までに、半数が70歳までに亡くなる」という事実を確認したが、今回はその続きである。

⑥ここで一つの疑問が浮かぶ。出生数は必ず男が女より多いが、高齢者数は必ず女が男より多い。この人数はどこで逆転するのであろうか。単純にどこで人口の男女逆転がおこるのかと調べると、2020年5月の人口推計では、50~54歳男性は433万3千人、女性は428万6千人で男が女より4万7千人多いが、55~59歳の層では男性は388万7千人、女性は389万6千人となり、女が男より9千人多く、ここで逆転が起きている。ざっくり55歳を分水嶺と考えてよいだろう。つまり55歳になるまでに(それ以後もであるが)男性は女性より常時多数の死者を出していることになる。

⑦2020年5月の人口推計では、49歳までの人口の総計は、男3367万7千人、女3229万3千人であるから男が138万4千人多い。20~49歳に絞っても、男2299万1千人、女2211万8千人で男が女より87万3千人多い。離婚、再婚ということがあるにしても、これだけ人数差があるのでは、生物学的摂理として出生数の多い男が未婚化するのは理の当然である。

⑧年齢別に死因を多い順に見てみる。(腫瘍は悪性腫瘍のこと)

  死因1  死因2  死因3  死因4  死因5

50-54男 腫瘍  心疾患  自殺 脳疾患  肝疾患

女 腫瘍  脳血管  自殺 心疾患  肝疾患

55-59男 腫瘍  心疾患  脳血管  肝疾患  自殺

女 腫瘍  脳血管 心疾患 自殺    肝疾患

60-64男 腫瘍  心疾患 脳血管 肝疾患  自殺

女 腫瘍  心疾患  脳血管  自殺   肝疾患

65-69男 腫瘍  心疾患 脳血管 不慮の事故 肝疾患

女 腫瘍  心疾患 脳血管  不慮の事故 肝疾患・自殺

70-74男 腫瘍  心疾患  脳血管   肺炎  不慮の事故

腫瘍  心疾患 脳血管  不慮の事故  肺炎

75-79男 腫瘍  心疾患 脳血管  肺炎  不慮の事故

腫瘍  心疾患 脳血管  肺炎  不慮の事故

80-84男 腫瘍  心疾患 脳血管  肺炎  誤嚥性肺炎

腫瘍  心疾患 脳血管  老衰   肺炎

85-89男 腫瘍  心疾患 肺炎   脳血管  老衰

  女 腫瘍  心疾患 老衰   脳血管  肺炎

90-94男 腫瘍  心疾患 老衰   肺炎   脳血管

老衰  心疾患 腫瘍   脳血管  肺炎

95-99男 老衰  心疾患 腫瘍   肺炎   誤嚥性肺炎

老衰  心疾患 腫瘍   脳血管  肺炎

100超男 老衰  心疾患 肺炎   腫瘍  誤嚥性肺炎

老衰  心疾患 肺炎   脳血管  腫瘍


 見たところ死因は男女で大きな違いが無いように思えるが、例えば50-54歳の死因第1位「腫瘍」こそ女の方が人数でやや上回っている(男3,421人、女3,841人)ものの、人口の男女差逆転後の65-69歳では、腫瘍による死亡者は男22,588人に対し女11,728人と、女性の人口の方が多いにもかかわらず男性の死亡者数がほぼ2倍である。これは他の死因(心疾患や脳疾患)においてはさらに顕著で男性の死亡者数が女性の3~5倍という年齢層さえある。

 以前2020年の10歳から39歳までの5歳刻みの死亡原因総数の第1位が、すべて自殺であるという衝撃の現実について触れたことがあるが、これも男女別に見れば、よく知られているように男の方が圧倒的に自殺数が多く、男は少なくとも女の2倍以上亡くなっている場合が多い。上記の表をパッと見ただけでも、男女とも50歳~64歳の年齢層においても相当な数の自殺者がいることが分かる。また65歳以上に見られる「不慮の事故」というのは何を指すのか(転倒・落下・接触等による死亡事故や交通事故、何かの巻き込まれ事故、火事や水に関係する死亡事故くらいしか思い当たらないのだが)、これがかなり多い数字になっているため、どうしても陰鬱な想像を禁じ得ない。自殺者3万人超えが問題になって久しく、「そう言えば最近聞かないな」と思っていたのだが、どうも「年間3万人どころか、10万人をゆうに超えると言われている」との話しを聞いたからである。財務省の公文書改竄さえあったのだから、厚労省が「自殺」の問題化を避けて死因の分類を変更し、データを操作するくらいはありそうである。基礎資料の信頼性を疑わなければならないとしたら、国民は情けなく、ただ憂えるしかない。

⑨最後に、一般的に女性は男性より長生きであるが、荒川氏のデータから「未婚」「離別」「死別」の場合と異なり、「有配偶」の場合のみ男性の死亡中央値が女性より上回っている(男およそ81歳、女およそ78歳)件について考えたい。一口に有配偶と言ってもいろいろなケースがある。夫婦とも健康で老年まで添い遂げられる場合もあるが、どちらかが病気になって入院したり、やむを得ず老人施設に入所して同居できない場合もあるだろう。健康寿命は平均寿命より十歳ほど下という話もよく聞く。そのうえで妻の死亡中央値が夫より3歳早い原因を求めるなら、現在後期高齢者となっている女性の未婚率が極めて低いことを考慮して、「家族のケアなど様々な心労で心身をすり減らすから」と考えても無理筋ではないように思う。この世代の女性は職業を持つケースは多くなく、専業主婦が当たり前の世代である。定年退職後の夫を持て余す年配女性数人が、定年後6か月で夫を亡くした知り合いの未亡人の話題で、口々に「まあ、なんて羨ましい」と会話する背筋も凍るような話を聞くにつけ、こういう家庭が相当数あるのだろうと思う。私自身、病院の待合で、定年後の夫の食事やお茶の世話で「私の時間なんてあって無きが如きものなの」と嘆くご婦人の話を聞いたことがある。


 以上、人口動態統計ほか冷厳なデータから考え得ることを勝手にまとめてみました。私の目には、収めた年金をほとんど受け取れずに亡くなる未婚男性が相当数いる一方、家族のケアで寿命を削っているかのような既婚女性もいるように見えます。統計の見方に誤りがあるかも知れませんが、なんともやるせない結論になりました。それ以前に若年・壮年層の自殺という非常に重い問題もあります。高度成長期におそらく明るい未来を感じられたせいで増加した人口も1966年の丙午による出生数の激減や1970年からの団塊ジュニアの就職氷河期、その後に続くバブル崩壊、成果主義の導入、経済のグローバル化に対応した非正規雇用のとめどない増加により、日本経済は全く暗澹たるものになっています。今後も少子化と人口減少が進むと考えられ、今のところそれが止まる要因は見出されません。年の瀬にこんな暗い話題になってしまい、誠に残念です。


 ・・・と書いてから、ハッと我に返りました。データを追うのに夢中になって基本中の基本を忘れていました。

「あなたがたのうちだれが、思い悩んだからといって、寿命をわずかでも延ばすことができようか。」

 これはマタイ6章27節にもルカ12章25節にもある文言で、主イエスがそのように語られたことがほぼ確実な言葉です。どんなデータがあろうと統計がどうなっていようと、またどんなに健康に気を付けて過ごそうと、まさしくその通り、笑ってしまうほど寿命など思い通りにはなりません。我々の命はただ神の御手の中にあるのです。