2022年12月26日月曜日

「独身男短命説を考える 1」

 「独身者男性の平均寿命は65歳らしい」という話を聞き、調べてみることにしました。往々にして平均寿命というものは統計のマジックで「あれれ」な結果になりがちです。さっそく荒川和久という独身研究家(あらゆることに対して研究している人がいるものですね)という方の書いたウェブ情報に行き当たりました。男女別かつ未婚・離別・有配偶・死別の死亡中央値という興味深い資料が見つかりましたが、無断転載禁止となっているのでここに詳細な数値を書けないのが残念です。概要としては未婚の男性は70歳に届かず、離別の男性は70代前半、また有配偶の女性は80歳に届いていませんが、それ以外は80歳を越え、特に死別の場合は男女とも90歳に近いか90歳を越えています。ちなみに中央値というのは、資料を大きさの順に並べたとき全体の中央にくる数値で、平均値とは違います。死亡中央値とはその年までに半数が死亡するということを表し、「そういえば中学でメジアンというのを習ったな」と思い出しました。

 いずれにせよ未婚男性が著しく短命なのは明らかで、離別男性もそれに次いでかなりの短命だと分かりました。荒川氏は「有配偶女性の死亡中央値が低くなるのは、有配偶のまま死亡する女性の総数が少ないためである」と説明していますが、データから言えば「男は一人だと短命、女は一人だと長寿」ということは明言してよいのではないかと思います。

 さらに、荒川氏は「そもそも若年層はほぼ未婚者なのだから、未婚者の死亡平均値が低くなるのは当然である」ことを踏まえ、50歳以上の配偶関係別死亡年齢データ(2015~2019の5年間のもの)のグラフを掲げています。(50歳で区切っているのは、50歳までに一度も結婚しない人の割合「生涯未婚率」のデータを利用するためと思われます。)配偶関係別というのは、ざっくり「未婚」か「既婚」かに分けたという意味で、既婚には「婚姻関係継続中の場合」と「配偶者に先立たれた場合」を含むようです。これによると、未婚女性、既婚男性、既婚女性の死亡年齢の山が後ろ(即ちより高齢)の方にあるのに対して、この山が未婚男性のみかなり前(即ちより若い)方にずれているのが一目瞭然です。その点では「死亡中央値」ではなく「死亡平均値」であれば、未婚男性はほぼほぼ70歳と言ってよさそうです。これでも低いことに変わりありませんが・・・。グラフから見る限り、一番憂慮すべき特徴は、全く驚くべきことですが、未婚男性は50~64歳(65歳を迎える前)の間に3割近くが亡くなるようなのです。

 ここできちんとしたデータを元に基本的問題を整理するため、2020年の人口推計および人口動態調査に当たってみました。思いつくままに考え得ることを記します。

①2020年5月の人口は、総人口 約1億2589万5千人 (男:約6125万8千人、女:約6463万7千人) で、女が337万9千人多い。

②このうち50歳以上の人口は、約5992万9千人(男:約2758万3千人、女:約3234万6千人)で、女が476万3千人多い。これは総人口の47.6%(男45.0%、女50.0%)を占める。

③一方、2020年の死亡者数は、総死亡者137万2648人(男70万6750人、女66万5898人)で、男が4万852人多い。

④このうち50歳以上の死亡者は、約133万4695人(男:68万2702人、女:65万1993人)で、男が3万709人多い。これは総死亡者の97.2%(男96.6%、女97.9%)を占める。

※死亡者総数に占める50歳以上の割合があまりに多いので計算違いかと思ったが、理由は出生数の変遷にあると判明。出生数が260万人を超えている1947~1949年の団塊世代は言うに及ばず、戦前・戦中の1920年、1930年、1940年も出生数は200万人を超えている。(1920年~1940年のデータはこの10年刻みのものしか見当たらなかったが、この間は毎年200万人前後の出生数と推定してよいだろう。)また、1950~1952年も200万人を超える出生数であり、単純に言って、50歳以上は分厚い層をなしているのである。ちなみに2020年の出生数は84 万832人であるから、200万人というのがいかに途轍もない数字か分かる。勢い死亡者数も多く、総死亡者数の大半を占めることになる。

⑤50歳以上の死亡者数だけで見ると、その割合は50歳から5歳刻みで次のようになる。

男:1.9%→ 2.7%→ 4.1%→ 7.5 %→ 12.4%→ 15.3%→18.4%→ 19.9%と、85歳~89歳で最大になり、以降13.2%→ 4.0 %→ 0.6%と下がっていく。

女:1.1%→ 1.4%→ 1.9%→ 3.4%→ 6.0%→ 8.9%→13.9%→ 21.6%→ 23.8%と、90歳~94歳で最大になり、以降14.1%→4.0%と急激に下がっていく。

50歳以上の死亡者の中で、65歳を迎える前に亡くなるのは、男8.7%、女4.4%で、男は女のほぼ2倍になっている。これが、70歳を迎える前に亡くなる50歳以上の割合となると、男16.2%、女7.8%とさらに差が開く。これは未婚・既婚を合わせた男女それぞれの総数から算出した数値(人口10万対)である。2020年の未婚・既婚それぞれの正確な人数を得ることがまだできていないため、現時点で荒川氏のグラフの詳細な検証はできない。ただ、手元にある総務省統計局の2015年国勢調査における「年齢階級別未婚率の推移」(この場合の「階級」とは5歳刻みの年齢区分を指す)によると、2015年時点で85~90歳男性の未婚率が約2%なのに対し、50~54歳男性の未婚率は21%である。ちなみに女性はそれぞれ約4%、12%である。同様に55~59歳男性および60~64歳男性の未婚率はそれぞれ約18%および14%である。早死にする未婚男性の人数に引きずられて、65歳を迎える前に亡くなる男性が8.7%という数値になるとすれば、やはり未婚男性の四分の一くらいは65歳までに亡くなると考えるのが妥当と思われる。いや、未婚率21%というのは2015年のデータだったのを忘れていた。国立社会保障・人口問題研究所によると、2020年の「生涯未婚率」は男25・7%、女16・4%まで上昇しているというから、やはり荒川氏のグラフが示す通り、「未婚男性の3割近くが65歳までに亡くなる」というのは確かなようである。データから同様に考えると、「未婚男性の半数は70歳までに亡くなる」と言って過たないであろう。

 まだまだ考えられることが整理できないので、この件についてのさらなる考察は次回に譲る。