2023年1月4日水曜日

「光の方へてくてく歩く ー2023年―」

 大晦日は朝のうちゴミの始末をし、シナモンパンを焼いて、ウォーキングを兼ねて買い物・・・といういつもと変わらない日を過ごしました。31日までゴミ回収車が来てくれるとは有り難いことです。パンを焼く間ラジオで子供科学電話相談を聞いていると、「○○○○5歳です。地球は水に浮くの?」という問いや小学3年生からの「忘れ物をすると先生に怒られます。怒ることにいいことがあるんですか」との相談が寄せられ、回答者とのやりとりに思わず笑ってしまいました。これほど丁寧に子供に対応する時代になったのだなとの感慨があります。もちろん正反対の扱いを受けている子供もいることでしょう。しばらくしてもう一度ラジオのスイッチを入れてみると、まだラジオ相談は続いていて「人間は理性があるのにどうして見た目や肌の色で差別するんですか」というラディカルな問題が問われていました。みな子供のように考えて行動することができるなら、この世の問題はすぐさま解決に向かうはずです。

 私の中で昨年の暗い話題は過ぎ去りました。一挙に物事を好転させるような方策はあり得ないので、一国民としてまっとうに生きていくだけです。個人的には、急激でなければ適度な人口減は悪くないと思っていますが、人口ピラミッドと経済の凋落を見る限り、今後数十年にわたってソフト・ランディングは到底無理、これまでの水準から言えば惨めな未来が待っているのは確実です。できることはほとんどない中で、少しでも生きやすくということであれば、多くの人が願いは悪辣な強欲資本主義のターゲットになって破滅的経済に陥ることだけは避けること、必要最小限の物質依存でも何らかの幸福感を得られる価値観を持つことに尽きるのではないでしょうか。(これは案外ヨーロッパのパッとしない地域の生き方ではないかと思っています。)猛烈な発展を遂げてきた日本がイースター島文明以上の謎の消滅を回避したいなら、経済や労働に関しては小さな努力を地道に積み重ねてゆっくり縮んでいくしかなく、家族や社会生活に関しては明治以来の家族観、特に男女観を見直し、乗り越えるしかない気がします。

 『資本主義の終焉と歴史の危機』(2014年、集英社新書)を読んで以来大ファンになり、信頼できる経済学者の水野和夫氏が、ラジオで日本の財政についてこれからの対処法を述べていました。今年は114兆円とも言われ、5年連続100兆円を超える危機的な国家財政予算、この3分の1は国債頼みで、すでに積み上がった国家債務は1241兆円(対GDP比270%で世界一、1800年以降存在するデータ中最高)です。これまでは経常収支が黒字で対外純資産が411兆円あり、また1兆2千億ドルの外貨準備があったため、これが国債の信用を形成していたこと、また国債の消化がほとんど国内でできていたことにより、大きな問題となってきませんでした。しかし、その両方に陰りが出て、昨年3月時点での国債の外国人保有率が15%にもなっており、15%というのは新興国が危機に陥るラインとのこと、少し違うケースかもしれませんが、ギリシャやメキシコ、アルゼンチン等の国情を思ってゾッとしました。

 財政再建には歳出カットか増税しかありませんが、国民の現状を見れば歳出カットは難しい。ではどこから税を取って増やすかと言えば、負担能力のあるところ、つまり儲かっているところです。法人の中には政府による無理やりの株価上昇と金融緩和により棚から牡丹餅的に利益を伸ばしているところがあります。自己資本利益比率7.9%(バブル期でさえ6.3%)は不必要に多く、今内部留保金をため込んでも意味がありません。累進課税により投資純利益30兆円を超えた利益に課税すれば15兆円ほどの歳入が見込め、それを嫌う法人は賃上げをして労働者に還元するはずで、それはそれで可処分所得が増えるので徐々によい結果につながるでしょう。また、個人金融資産の多い人への資産課税も行えば、相続税 10兆円の増加が見込めるとのこと、この2つで来年度予算の不足分を補えるという話です。とにかく年度ごとの収支をマイナスにしないことが財政再建の第一歩、まずそこからです。

 こういった政策は政府にしかできないことなので、私利私欲を捨ててやっていただきたいと思います。20年前に自分の財産を限りなく増やし日本の格差を広げようとした新自由主義者たちも、まさかここまで日本経済が凋落するとは思っていなかったのではないか。そしてそこからさらに想像を絶するほどの展開として、経済的基盤を失くした国民が希望を失って家族の形成を止め、これほど早く国自体が消滅へと向かうとは思っていなかったのではないか。彼らの良心に訴えることは(無駄なので)致しません。ただ「このままではあなた方はもう稼げませんよ」と言うだけです。それならばと、タックス・ヘイブンに逃れる方は放っておきましょう。

 同じくラジオの新年展望で、寺島実郎(一般財団法人日本総合研究所会長)が日本の現状を明示してくれました。「明治維新から日本の敗戦まで77年、敗戦後2022年までが77年、この先77年後は2100年、このとき人口は6000万人を割っている。戦後日本のGDPは世界の3%だったが、高度成長期に18%まで伸びた。しかしこれが2022年に4%になる。一人当たりGDPでも台湾に抜かれ、韓国に並ばれ、アジアで5位、世界で30位という状態である。」

 ここが我々の現在地点です。これは小泉政権以来アベノミクスに至るまで、人為的に起こされた凋落です。デフレにより30年間賃金が上がらずに日本の中間層はほぼ壊滅してしまったため、デフレ脱却を目指して強制的にインフレを起こそうと日銀が大規模金融緩和を行いましたが賃金および物価の上昇はほぼありませんでした。(最近の物価上昇はコロナからの経済活動復活による労働力不足やロシアによるウクライナ戦争の長期化による海外情勢の不安定化が引き起こしたもの、ひいては信用力を落とした日本の急激な円安によるものです。)まねー・サプライが続いた期間、株価は有り余ったマネーで吊り上げられて富裕層はますます富みましたが、一般庶民は沈んだまま回復力を失ったのです。森永卓郎が『年収300万円時代を生き抜く経済学』(2003年、光文社)を書いた時、多くの人が「いくらなんでもまさかそこまで」と思ったに違いありませんが、現在はさらにその下に年収100万円台の層がかなり分厚く存在するようになりました。逼迫した国家財政は国債に丸投げされてどうにもならないところまで来たのは誰の目にも明らかで、昨年後半の急激な超円安は日本の経済が信用を失墜した証拠です。人でも社会でもすべて信用で成り立っています。経済も同様です。これを失くしたらどうやって生きていけるでしょうか。

 ここまで落ちたのですから、もう開き直るしかないでしょう。年末にラジオ番組のリスナーの投稿で23歳の息子さんを自殺で失った方の話を聞きました。その方の事情は分かりませんが、少しでも自分に合ったことを見つけながら、信頼する人たちと共に生きていくことはできなかったのだろうかと居たたまれない気持ちです。家庭生活に関しては、私がこれまで読んだ本から自信を持って言えることは、もう「男は働いてなんぼ」といった考え方や「女は家で安らぎを与えてくれる存在」といった幻想に基づいた生き方をやめるべきだということです。男女とも自分の才能を最大限生かして、できることをすればいい。お互いが相手を自分の視点で値踏みせず純粋に尊重する気持ちがあれば、幸せな過程が築けるのではないでしょうか。そんなことは皆もうとっくに気づいていて、実行されている方も本当は多いだろうと思います。家族の形は人それぞれでよいのは言うまでもありませんが、専業主婦の母親に大切に育てられた男性が、自分も子供に同じようにしてあげたいという気持ちは痛いほどわかるものの、もうその考えは主流にはなれないのです。女性にとっても稼げる男探しで消耗する時代は終わりました。皆もう分かっているはずです。個人として尊重し合う関係になれない限り、人との良きコミュニケーションは取れず、それがこれからの時代最も大事なことになるでしょう。それだけ成熟した人間にならないと幸福な人生を送れない時代だということです。