2017年11月16日木曜日

「紅春 115」

東京に帰る少し前から、りくにはそのことを伝えます。前日に「明日から姉ちゃんいないからね」と言うと、りくは目に見えてすっかりしょげかえってしまいます。可哀想ですがしかたありません。思い切り甘やかせてくれた家来はもういないのです。切り替えて、兄との堅実な生活に戻ってもらはなくては。


 先回の時は、りくは寂しくなってしまったらしく、一晩中二階の兄のところで寝ていました。夜起きた時、茶の間にいないことはそれまでもありましたが、そのうち戻ってきているのが普通でした。帰る朝、まだ暗いうちから起きてごそごそ準備していたら、耳ざとく聞きつけてりくがゆっくり降りてくる音がしました。りくは平気で二階に上がれるようになりましたが、相変わらず慎重なので、今でも階段をゆっくりしか降りられません。旅立ちの朝はとても忙しい。何よりまずりくの散歩、それからぎりぎりまで外につないで気分転換させる、一日長いお留守番が始まるからです。その間、水を換え、早すぎてまだ食べられないだろうけど一応りくの朝ごはんの準備をし、それから自分の朝ごはんとなります。りくはもう私がいなくなることをわかっています。最後に家に入れて少し遊んでから、「姉ちゃん行って来るよ。兄ちゃんの言うことよく聞いて」と言って家を出ます。りくは見送りに来ることも来ないこともあり、結構淡泊な別れです。