2015年4月28日火曜日

「紅春 62」


 犬が本来群れで生きる動物であることは確かでしょうが、縄文の昔から人間と暮らしてきた柴犬は自分も人間と同じ種類の個体であることをいささかも疑っていないようです。りくは人様に対してあまりにそっけない対応をしてがっかりさせられることが多いですが、家族に対する対応は全く違います。その理由は「家族だから」以外ではなさそうです。「かわいがってくれる人だから」とか「食べ物をくれる人だから」というのは、全く関係ないようです。

 私が久しぶりに帰ると、りくは大騒ぎで私に飛びついてきますが、その時の顔は真剣すぎで怖いほどです。可能な時は兄が駅まで来てくれますが、一度「姉ちゃんを迎えに行ってくるね。」と言って出ようとしたらりくが大騒ぎになってしまい、それ以来迎えに出る時「姉ちゃん」という言葉は禁句になったと言っていました。

 兄が仕事から帰ってくるときも大変な騒ぎなのです。家の中で玄関のあちら側の車のテールライトを確認すると、何が起こったのかというくらいの勢いで、「兄ちゃん帰ってきた。」と私に知らせに来ます。それからうれしさをこらえきれずに、私にかかってきたりぬいぐるみをビュンビュン振り回したりし始めます。(今のお気に入りぬいぐるみベストスリーは、お月様、ペンギンさん、あひるさんです。)
「りく、やめなさい。あ~、ペンギンさんの腹わたがーっ。」
中綿があたりにとびちっています。すると今度は、こんなに頭を振って大丈夫なのかと思うほど、お月様を左右に高速で振り回します。
「なんでそんなにうれしいの。」と聞くと、「家族ですから。」とどこかの白い犬のように答えます。