このお店を私は全然知らなかったのですが、カフェ・バッハは小泉元首相もが訪れた店として知られる、東京でも三本の指に入るほど有名なカフェだそうです。友人に連れて行ってもらいましたが、驚いたのはその場所です。南千住に近い清川二丁目と言えば、山谷の真っただ中、そういえば最近は外国人バックパッカー向けの宿として変わりつつあるという話を聞いたことを思い出しましたが、この店はもう40年以上ここで営業しているとのことです。
カフェを訪れた日は休日で、そのせいか通りは殺風景でしたが、そのカフェだけは混雑していました。おそらく私たちと同様、みなそのカフェを目指してきた人たちだったのでしょう。運よくカウンターが空いていてすぐ座れました。店内はコーヒーのいい香りと懐かしい雰囲気に満ちていました。普通の喫茶店に比べて店員さんが異常に多く、おそらくその半分は修行にきているのでしょう。半袖の制服といい、きびきびとしたリズムのある身のこなしといい、ドイツのカフェの店員を髣髴とさせるそっくりの動きでした。ケンヒェン(ポットの)コーヒーを飲んだのは何年ぶりでしょうか。ヘルベルトはいつもケンヒェンを頼んでいたっけ。カフェ・バッハのケーキもいただきましたがどちらも絶品でした。
カフェというのは本当は中欧以東の文化なのであって、それは西欧のカフェとは違うものです。一度フランクフルトのメッセの近くにあった本物のカフェに連れて行ってもらったことがありましたが、コート掛けや何種類かの新聞、盆に乗ってコーヒーとともに出てくる小さなグラスの水が必須のアイテムで、煙草をくゆらす人々が多数います。ただのコーヒー店ではないのです。日本ではどこでも水が出てくるのであまり意識しませんが、これはウィーン以東のカフェでなければ通常はないものです。旧西ドイツだったところでは、普通のカフェはコンディトライというケーキ屋さんを主体としているお店も多く、ケーキにコーヒーを付けるという感じです。これは日本のカフェに近い。特にカフェ・バッハはまさしくドイツのカフェそのままでした。とても懐かしくゆったりくつろげる時間でした。あしたのジョーの世界はもう遠くなったのかもしれません。