2014年6月14日土曜日
「福島県立美術館」
しばらく前のことですが、展覧会の鑑賞券をいただいたので久しぶりに福島県立美術館に行ってきました。昨年の若冲展以来でほぼ十カ月ぶりです。若冲展は人出が多くなんとなく平常心ではなかったため気づかなかったのですが、今回は入った途端、美術館特有の匂いをとても懐かしいもののように感じました。一瞬フランクフルトのシュテーデル美術館 Städelsches Kunstinstitut und Städtische Galerie にいるような錯覚にとらわれました。フェルメールの「地理学者」が窓から差し込む淡い明かりの中に静かにたたずむ美術館です。もう一度行ってみてもいいかなと思いましたが、フランクフルトの街並みを思い浮かべると少し体が痛んだのでやっぱりまだ無理だなと感じました。再び行ける日が来るかどうかもわかりません。
その日は子供の絵本をめぐる絵画の展覧会で、一見してプロの作品とわかる世界中の絵が展示されていました。エリック・カールの「はらぺこあおむし」やいわさきちひろといったなじみ深い作品ばかりでなく、チェコやポーランド、中国、中南米、アフリカの作品もありましたが、つくづく絵本は万国共通のものだと思いました。子供にとって本の話と絵は一体のものであり、絵本の挿絵は一生その心にとどまるでしょう。相当時間をかけてゆっくり絵を堪能し、とても癒されました。
日を変えて常設展にも行くことにしました。常設展は前にも見た記憶があったのでさっと見て終わるつもりだったのですが、これが誤算でした。あまり興味のない明治・大正時代の油絵は、やはりといおうか、全体に暗く離れてみると何が描いてあるのかわからないくらい黒っぽい。印象派とはいわぬまでももう少し色彩豊かでもいいのではないか、これでは油絵で描く意味がないのではないかとまず思いました。こうなってしまうのはおそらく基本が墨絵だからなのでしょう。あまりに暗い絵を見ているうちにふいに涙がにじんできました。かなり無理してなんとか西洋の画法を修得したいと必死にまねているのです。成功してはいないものの、その努力をけなげで可憐だと思いました。
東京で何かの折に福島県立美術館の話が出て、行ったことがあるという方が、「すばらしい美術館ですね。」と言いました。さして有名とも思えないこの美術館を知っているだけでも意外なのに、その評価のコメントに驚いてもう少しどういう点がすばらしいのか聞いてみると、
「山を背景にしたあの配置がすばらしい。あんな美術館は見たことがない」と。
いつもその前を通っているので気づきませんでしたが、緑の信夫山のふもとに抱かれて建つ落ち着いた茶色の美術館(西翼が美術館、東翼が図書館で中でつながっている。)は、確かに美しいものです。よく他県から来る知人に、「福島市って街のまんなかに山があっておもしろいよね。」と言われていましたが、このひょうたん島のような信夫山を逆手にとってここに美術館を配置したのは慧眼だったかもしれません。いや、きっとそうなのです。美術館はその建物自体が芸術品であるべきですが、設計者はそれをまさしく最も効果的な場所に置いたのだということに初めて思い至ったのでした。