2014年3月19日水曜日

「父の腕時計」


 「家から時計を持ってきてほしい。」
と入院中、父に言われました。目覚ましかと思ったら腕時計がよいとのこと。「電話の下の引き出しにあるから。」と言われたのですが、翌日私は持っていくのを忘れてしまいました。トイレの時間と回数を数えるのに必要だからというので、私は自分の時計を貸して次の日父の時計と交換することにしました。

 翌日、父の時計を持っていき交換しようとすると、父は「これでいい。」と言いました。私の時計はバックライトで夜でも文字盤が見えるので気に入ったようなのです。それでしばらくこのまま使い、退院したら交換しようということになりました。

 しかしその日は訪れず、結局私は通販で買った1980円の時計の代わりに父が40年以上前にスイスの本店で買ったオメガの時計を手に入れてしまいました。でもこれは兄にあげようと思います。私には自分の、そして父が最期にしていた時計があるからです。