靴選びは私にとって子供の頃から厄介な問題でした。同年齢の子供の中ではいつも足が大きかったのでサイズ探しが大変で、いくつか見つかっても「デザイン的にちょっと・・・」ということが多かったのです。しかし、とにかくあるものの中から選ばねばならず、たいてい不満が残りました。「足が小さい子はいいなあ」と思ったものです。
しかし大人になる頃には、大柄な女性も珍しくなくなったせいか、サイズ探しに困ることはなくなりました。とはいえ足の形は人様々なようで、平均的な形から逸れるとやはり違和感なく履ける靴は多くはなかったのです。しかしこれも現在では大幅に改善され、かなり足に合う靴が増えてきたと感じています。ウォーキングに力を入れる年配者が多いせいか、特にウォーキング用の靴は足になじんでほぼ満足に感じるフィット感です。もうこの歳になるとヒールのある靴はほぼ履きませんし、見映えもさほど気にならなくなります。履き下ろした一日二日くらいは少しどこかが靴に当たることがあっても、次第に履き心地良くなっていくので、「まあ、こんなもんでしょ」と思っていました。
ところが、最近ふと秋用にと思い立って近くのモールで試した靴は違っていました。履いてすぐ、「あれっ」と思うくらい履いた感がなく、少し歩いてみても履いているかどうか分からないくらい足にフィットしていました。今まで好んで履いていた柔らかい素材でヒールの無い靴と違い、カチッとした硬さがあり低いながらヒールも付いています。これまでは絶対に足に合わなかったタイプの靴なので「まさか」と思いましたが、ともかくそれを購入し狐につままれたような気分で家に帰りました。
翌日は外出日で、その靴を履こうかどうか迷いました。今まではどんなに足に合うと思った靴でも最初から遠出には使わず、必ず近場で慣らしてから履いていたのです。しかし、その日はおろしたての靴で出かけ、本当にびっくり! 一日中履いて歩き回ったり少し駆けたりしたのに、帰宅するまで全く異変を感じないどころか、履いていることを忘れるほどでした。これは私にとって初めての体験で、人生何十年目かに出会った魔法の靴のようでした。「シンデレラの足にしか合わない靴とはいかなる靴か」と、これまで訝しんできましたが、「そのようなものは本当にあるのだ」と分かりました。仮にこの靴がガラス製だったとしてもスッっと自然に履ける気がしました。シンデレラの靴は一足限り(しかも片方だけ)ですが、私は翌日もう一足買いに行きました。このような靴にもう二度と出会えるとは思えなかったからです。靴選びに苦労してきた者にとって、これって王子様に会うよりうれしいことではありませんか。