相変わらず、男女をめぐる家庭や仕事についての本を読んでいます。いま生起している様々な現象は明らかな社会変化を示しています。社会学者によって、親世代、祖父母世代の生活形態(男は仕事・女は家事)の方が日本史的には稀有な時代だったことが解明されています。今は次のパラダイムへの移行期であることは確かなのに、むしろ前世代の家族の在り方を取り戻そうとする真逆の主張が勢いを増しているように見えるのは残念です。それは、曲がりなりにも次へのシフトが成功しなければ、若い人に未来はないと思えるからです。
実際、世相小説や実話には知らなかったことが満載で、「世の中こんな恐ろしいことになっていたのか」と思わされます。まっとうな生活をされている方も多いのでしょうが、それは意外と本人の楽観性と幸運によるのかもしれません。これまで読んだ話は多くが女性の生き方に焦点を当てて女の視点で書かれており、庶民には計り知れない世界もありますが、ほとんどが女性なら誰もが深く考えさせられる話です。すなわち私は、
①超が付くほどのお金持ちの間でも歴然とした階層差があり、階層降下を回避するために全精力を傾ける底なしの自意識に驚愕し、
②階層格差をあからさまに可視化したタワーマンションに住む主婦たちの、際限のない無意味な探り合い、気の回し合いにげっそりし、
③キャリアを保持しながら30代前半までに結婚と二人の子の出産を済ませるため、会社探し・配偶者探しを念入りに行う女子大生の計算高さにうんざりし、
④実際に秒単位と言えるほどのスケジュールで仕事と子育てをこなし、ちょっとでも不測の事態が起きたら生活は破綻するという崖っぷちのママたちに同情を禁じ得ず、
⑤男女同等の家事分担を前提に働いていたキャリア女性が、突然無職となった夫を前に自らの欺瞞性に気づき、無職の夫との新たな人生構築をしていく姿に納得し、
⑥安定第一の上昇婚を望み、家庭持ちが暗黙の前提である企業人と結婚して望みは適えたものの、体裁を整えるだけの心通わぬ家庭生活で変貌していく女性の姿をやるせなく思い、
⑦夫が仕事を失うとあっという間に家庭崩壊する現状に、これからは男女とも仕事をせずに済む時代ではないと強く思い、
⑧退職後すぐに夫の死亡した妻を「なんてうらやましい」と話す主婦たちに背筋を寒くし、「この人たちにとって結婚ってなんだったの?」と不思議でしかたない、等々の感想とともに、申し訳ないけれどこういうことを今まで知らずにいられて、幸せだったとつくづく思ったのです。
別世界のセレブは文字通り別として、庶民が家庭を持って生きるには夫婦双方が働きながら力を合わせ、家事や雑事の分担も折り合っていくしかありません。事実、男だけが家族を養う時代は終わっているのに時代の流れに逆行して男性だけが変わらぬ働き方と責任を負わされているから、非婚・少子化が止まらないだけでなく(何しろ家事を減らすには世帯の成員を減らすしかないと学者が言っているのです)、女性に比べて圧倒的に男性の引きこもり、自殺が増えていると考えるのは故無きことでしょうか。思い浮かぶ解決法は2つあり、1つはこういったことの先進国(主にオランダ、フランス、北欧)を参考にすること、もう1つは家事ロボットの開発です。優れた家事ロボットがあればかなりの負担軽減になり得、実際IOT(物をインターネットでつなぐシステム)が実用化されつつあります。しかし、これが掃除・洗濯・料理といった狭義の家事を担うだけではさほど効果はありません。子育てをどうするかという大きな問題があるからです。常に問題になる保育園のお迎え、家で過ごす子供の見守り、学習や習い事の世話(私の知り合いは、「小学校に入ったら少しは楽になるかと思ったら、学童期の方がかえって大変になった」と言っていました)、またPTAやご近所、町内会等の必要な付き合いまで含めたら、これはもうアンドロイドが必要です。しかし、今でさえ子供がお掃除ロボットに愛着を持ってしまって、買い替えができないという話を聞くと、子供と親の関係がどうなるのか考えてしまいます。その先の想像をたくましくすると非常に恐ろしいことがなりかねないので、このへんで止めておきましょう。鍵は多分バランスですね。