2014年1月6日月曜日

「メーヘレンのこと」


 フェルメールの贋作者メ―ヘレンのことを知ったのは15年ほど前のことです。オランダの至宝フェルメールの絵画をナチスに売ったかどで逮捕された後、彼は獄中で作品を再生産してみせ無実を証明したという実話をおもしろいと思いました。彼の絵は今見るととてもフェルメールには見えませんが、絵画も時代の中で生きている以上、時を経て初めて見紛うかたなき異質さがあらわになったのでしょう。

 メ―ヘレンの贋作制作は、画壇における自分の画家としての評価が低いことへの恨み晴らしとして行われたとも言われていますが、模写にしろ贋作にしろ何かを模倣するというのはとどめることのできない人間の本性なのだと思います。獄中で絵筆をとった時に、この画家の制作意欲は最高潮に達したのではないでしょうか。おそらくは深い愉悦とともに。

 当時は今ほど評価の高くなかったフェルメールに目をつけ贋作者になることで彼の絵画に彩りを添えたメーヘレンの名は、フェルメールの絵画が存在する限り、興味深いエピソードと共に永久に残るでしょう。