2014年1月15日水曜日

「生物 個体の多様性」


 社会の中でおそらく誰でも毎日感じることの一つは、自分と似ている人よりも自分と違う人の方が圧倒的に多いということではないでしょうか。とてもまねできないすごい人がいる一方、こういう人が世の中をダメにしていると思うことがあるのが日常でしょう。最近、真社会性生物と言われるアリやハチの研究を知り、一概にヒトと比較はできないものの大変考えさせられました。

 アリやハチを個体識別して観察・研究調査していることにまず驚きましたが、アリやハチも労働という点から見ると個体差が著しいというのはびっくり仰天です。一日の9割が労働に費やされる働きアリがいるかと思うと、同じ働きアリでもほとんど労働をしない個体もいるというのです。その差が生じる理由は刺激に対する反応の敏感さが個体ごとに違うためであり、鈍いアリは他のアリに先を越されてしまうため仕事にあぶれてしまうのです。こういうアリが全体の2割ほどおり、何もなければ一生ほぼ労働をせずに過ごすようなのですが、人工的にこういうアリだけ集めた時にはしっかり働き始め、なおかつこの場合も仕事にありつけないアリがやはり2割ほどいるとのこと。

 面白いのは働かないアリがいる意義で、皆で一斉に働いてしまうと一斉に疲れてしまい、不測の事態が起きた時に働けるものがいないという状態を避けるためです。また、巣にはひとときも欠かせない仕事(卵や幼虫の世話)があり、これが途切れることがあればコロニーは滅びへ向かうのですから、不慮の事態に対応できる存在は不可欠です。人間と違うのは、アリは基本的にえさ集めや巣の修理、卵や幼虫の世話など何でもできてかつ熟練するということはないという点です。(ただ、どうも好き嫌いはあるようで、最初にやった仕事を好むというのはなんだか微笑ましい。)

 すべてはコロニーの維持に最適な条件が保てるよう進化を遂げてきたのであり、全体として見ると完璧に機能していると言えるでしょう。利己的な振る舞いに見えても、実は利他的な効果をもたらし自らの種の保全に直結しているのです。もっとも、真社会性生物の中で全く利己的な振る舞いが見られる場合もあります。例えば女王バチのいないある種のハチの中には、労働せず卵だけを産む個体もいます(遺伝子にわずかな違いがあるのです。)が、産卵によりこのような個体だけが増えてしまうとコロニーは滅ぶしかありません。そしてその空いた巣にはそうでない遺伝子を持つハチの群れが住みつくのです。自然界は実にうまくできているものだと感嘆します。