その日、不慣れな土地のため五分ほど遅れた私と連れ合いは集合場所に息せき切って駆けつけましたが、もう人影はなく「直接、教会までおいで下さい」の貼り紙。といっても、教会の場所がわかいません。患者さんの一人に尋ねると、そのおばあさんは親切にも教会まで案内してくれました。おかげでガイドさんの説明に間に合い、中に入ることができました。
説明によると、ワグナーは明るい会堂をめざしましたが、過度の採光・照明は病気に悪いとの医者の助言があり、金色を多用することできりぬけたことと、中央に描かれた絵画は、未熟な職人が途中で挫折したり、プロテスタントの妻を得たりしたため、結局三人目の職人が完成したこと、様々な曲折を経て従来の固定観念が破られ、ステンドグラスに髪がショートカットの天使が採用されたことなどがわかりました。
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見上げた天井 |
丸天井ははるかに高く、見上げるとまるで星空の下にいるようでした。また、患者への配慮から、壁にはカトリック特有の華美な装飾物は一切なく、いすなどの端は丸く削られていました。また、聖水で遊んだりせぬよう触れると水が数滴だけ出る仕掛けもあり、不慮の事態に床が水洗いできるよう、いすの足の最下部は金属製でした。礼拝中は医者2名と看護婦5名が待機し、万一に備えているとのことでした。
ただ美しいだけでなく、患者さんに対する深い気遣いに感銘し、この病院における魂の癒しを祈らずにはいられませんでした。帰りに仲間の人達と丸くなって草地に座っている先ほどのおばあさんを見つけました。近寄ると彼女は
「教会はどうでしたか。」と明るい声で話しかけてきました。
「すばらしかったです。そのお礼を言いにきたのですよ。」と私たちは答えてその場を後にしました。 1993年 夏