11月の水難の後に私を襲ったのはインターネット関係の苦難である。これも私の超苦手な分野であり、今回の問題もまさしく悪夢であった。或る朝起きたらネットがつながらなくなっていた。始めは気づかずに「今日はメールが来ないな」とのんきに考えていたら、インターネットアクセスを示す扇状の波が出ていない。慌てて自分が知り得る限りの回復法を試してみたが、全く修正できない。何しろネットで修復法を探そうにも、それが使えないのである。
「これはカスタマーセンターに電話で問い合わせないと駄目だな」と思って、次の瞬間私は完全に凍り付いた。電話も使えないのである。受話器を上げても赤ランプがつかない。私は電話とインターネットのプロバイダを変更するとき、両者を一括で同じ会社に変更した。そのせいで今どちらも使えない状態になっているのである。せめて別々にしておけばどちらかは使えたであろうが、プロバイダは一括で契約を勧めるのが通常である。一応室内のルーターは無事働いているので、これは「インターネットのケーブルが接続されていない」という状態である。
「物理的な修繕を必要とする状況」だとほぼ思いかけて、ふと「もしかしたら何らかの悪意のある者が私のアカウントを乗っ取って使えなくしたのかもしれない」との思いが頭に去来した。そして「このままだと被害が拡大するのではないか」との恐怖に捕われてしまった。悪い想像はどんどん亢進するものである。取り敢えず、外部との唯一の交信手段であるスマホでサポートセンターに電話するが無情にも、「本日の営業は終了しました」の音声。ここまででほとんど全日つぶれたことになる。「インターネットでのお問い合わせは24時間行っています」と聞こえてきたが、スマホをほぼ使っていない私にはハードルが高すぎる。その日は区内にある支店の電話番号と住所を書き留めるだけに終わった。
私はフリーダイヤルというものを信頼していない。つながるまでに長時間かかるからである。眠れぬ夜を一晩過ごし、私の心は決まった。「直接行くのが一番」である。翌朝、加入した時の書類一式を鞄に入れ、区内の支店に行く。行きにくい場所にあるのでタクシーを使う。運転手さんも会社の名称だけでは分からなかったので、「住所を調べておいてよかった」と思った。
だが、行ってみると6階と書いてあったのは事務所で、1階店舗が開くまで1時間もあった。私は蛮勇を振るい、職員通用口から入り、そこで会った職員の方に「インターネットと電話が突然使えなくなり途方に暮れています。助けてください」と懇願した。その方はびっくりしていたが、私の苦境を思いやって別の階に移動して次の方につないでくれた。紹介された方も、これは彼の仕事の範疇ではないのだが、私の窮状を聞いて、「ご迷惑かけてすみません」と言ってすぐ工事関係の部署につないでくれた。これにより、その日のうちに工事の方が来てくれることになった。こういうのを惻隠の情というのであろう。この時、「電話も一緒に使えなくなったのなら、メールアドレスの乗っ取りと言うことはないでしょう。電話はテレビ線を使っているので」と説明してくれたことで、私の心配は一挙に吹き飛んだ。我ながら「どれだけアナログなんだ!」とは思うが、急激に前進したのは確かである。
部屋の片づけをして工事の方からの電話を待つ。その間、兄に電話、メールして実家においてあるパソコンを調べてもらう。そちらはインターネットもメールも問題なく使えると分かったホッとする。やはり自宅での物理的な問題である。そのうち工事の方が来て、パソコンの電源を落としてから、家のケーブル付近で古い部品を交換したが復旧しない。「共用部の機械を見てきます」とのことで階下に行き、結局、「共用部のブースターの故障」と判明した。解決の出口が見え、私は全身の力が抜ける思いだった。電話機の受話器を持ち上げて赤いランプを確認、プーッという音が聞こえる。夢のようである。インターネットもつながって扇形の波長が見える。こうして悪夢は終わった。工事の人が変える前に、二つ質問をした。①「こういった場合どこに電話すればいいか」には、加入者向けの番号を教えてくれ、②「メールアドレスを変えたいが自分でするのは心配」に対しては、電話した時に出張サービスを頼めばよい」との答えが得られて助かった。
朝出かけた時は、「今日中に見通しがつくといいな」と祈るような気持ちでいたが、ここまで回復できるとはまさに夢のようである。神様に感謝。この勢いのまま、迷惑メールが多くなったアドレスの変更しようと決心し、先ほど聞いた加入者用のフリーダイヤルに電話する。長時間待つのを覚悟したが、10分ほど待ってつながる。「メールアドレスは削除できないが、アドレスの追加をすればよいこと」および「メールアドレスはメールの機能を用いてでオン、オフの切替ができる」ことが分かった。新しいメールアドレスを考える時間が必要なので、メールアドレスを作るにあたっての注意を聞き、来訪の日時を決める。
今度こそ悪者に知られにくいメールアドレスを作りたい。悪者にアドレスが漏れるのは、アドレスが簡易だからという理由ではないのかもしれないが…。今日はもうへとへとだが、「電話とインターネットで外部と交信できるようにする」という最大の課題は解決したので心は晴れ晴れ。一連の事態の収拾に力を貸してくれた方々には感謝のほかはない。これからメールアドレスの変更の手続きが残っている。ITおよびICT音痴にとって苦難はまだまだ続く。