2024年8月2日金曜日

「マンション管理組合のあるべき姿」

 先日、たまたま集合住宅のロビーで出会った居住者Aさんと立ち話をする機会があった。Aさんとは普段行き来するような間柄ではないが、ことマンションの管理に関する課題についてはお互い問題意識を共有することが多く、そのたびに連絡を取り合う仲である。実は、先月の管理組合理事会の議事録にあった「管理協力金」について私は大きな疑問をもっており、彼女の意見を聞きたいと思っていたところだった。

 「管理協力金」とは何かと言えば、「理事を辞退する住戸が支払うお金」とのことで、私は仰天した。ここ2、3年は理事会の出席率は9割ほどで議事運営に支障はないと思われるのに、ずっと欠席し続けている理事のことが問題になっているらしく、そういう「どうしても理事を引き受けられない」ケースに備えて、「協力金」(という名目で事実上の罰金)を科した方がよいという話になっているらしいのである。

 これは由々しきことである。今の理事会の方には分からないと思うが、私が理事だった7~8年前は理事会に人が集まらず、定足数に足りるかどうか毎回ハラハラして理事が集合するのを待っていたものだった。なぜそんな状態だったかと言うと、このマンションの理事会は発足当時輪番制ではなく、輪番制に移行したのが十年以上たってからだったためである。それまでの経緯が様々あってスムーズに運営できるシステムがなかなか確立せず、隣の住戸の方が理事になれば「次は自分の番」と分かる程度のことだったのである。どのような組み分けで今現在どのように順番が進んでいるのかという具体的な俯瞰図が周知徹底されていなければ、あまり自覚がないまま理事になり、よく分からないし面倒だから理事会に出たくないと思う人がいてもおかしくない。

 私に理事が回ってきたのはまさにそのような時で、私自身理事会のことを考えるといつも本当に胃が痛かった。従って私がまず手をつけたのは総括的な輪番表づくりだった。これを理事が後退する時期の半年前に全戸に配り、自分はどの班で、自分の班の次の理事は誰か、また自分のところに理事が回ってくるのは何年後かが一目瞭然に分かるようにした。これによって各戸に理事の自覚を醸成でき、また各期の理事会がそれぞれ欠席者に声掛けするなど尽力した結果、出席率9割の理事会が出来上がったのである。

 理事会の仕事は時に非常に大変で、この負担を免れている住戸に批判の目が向くのも理解はする。「一度も出席できないなんてことがあるか!」という苛立ちも分かる。全員出席できるに越したことはないが、今回検討されている「協力金」案はその解決にならないと自信を持って言える。なぜなら、「やむを得ず理事を辞退する場合には協力金を払う」という制度が確立すれば、これは理事をしたくない人の頭の中では容易に「協力金を支払えば理事を辞退できる」と変換されるに違いないためで、私は何よりこれを恐れるのである。はっきり言って喜んで理事会の仕事をする人はまずいないので、お金で解決できるなら…と皆が考えれば理事をする人はいなくなる。これまで苦労して築き上げてきた理事会の在り方があっという間に崩壊するのが目に見えるようだ。

 この提案の決定的な欠陥は「やむを得ず理事を辞退する」ことができる基準を理事会が提示できないことにある。今どき全くの健康体で通院等がない高齢者などおらず、また仕事や子育て、介護や看護等で忙殺されていない家庭などないのだから、或る住戸が理事を辞退でき、別の住戸はそれが承認されないなどということはあり得ない。もしあれば、巨大な不満が他ならぬ理事会に向かって渦を巻いて流入するであろう。「協力金」が或る住居から得られない場合、それを取り立てる法的根拠はあるか、誰が徴収するのか、毎月ある理事会に1回だけ出席した場合はどうするのか・・・といった、具体的な手順を少しでも考えれば「これは到底無理だ」と分かるだろう。そしてどんな場合もそうであるように、お金が絡んだ場合の不和は回復できないものとなる。

 或る不都合な事態を改善する簡単な方法などあり得ないと、私は日頃から思っている。軽く考えて実行に移した場合、以前よりも一層事態が悪化することも多い。こと居住環境の保全または改善に当たっては、全員が相応の責任を負って、力を合わせて進んでいくしかない。世の中には仕事の分かち合いという形でしか保てないものもあるのである。

 その後、Aさんより連絡があり、大規模修繕など他の問題も含めて意見のある方々が、理事会に臨席して意見を述べ、問題を解決したとのこと。「協力金」に関しては廃案になったと知らされた。すごい行動力! Aさんは前のマンションで、理事会が管理会社の言うままに管理費をとめどなく増額させていったのに業を煮やして引っ越してきたというツワモノ、やはり経験知が違う。こういう人がいると本当に心強い。