2020年7月7日火曜日

「老齢の女」

 今から百年ほど前の小説を読んでいて、「六十歳の老婆が・・・」という言葉にぶつかりました。「六十歳の・・・老婆とはあんまりじゃありませんか」と思うのは今だからで、百年前は六十の女は老婆だったのだとしばらく言葉が出ませんでした。そして思い出したのは、「そう言えば子どもの頃は顔に深いしわを刻んだ女の人がいたなあ」ということです。あれは今は全く見ない顔です。子ども心に、老婆とはあのような老年の女性を形容する言葉でした。

 還暦を迎えていても、現在女優のOやHを老婆と呼ぶ人はいません。それどころか、後期高齢者の仲間入りをした国民的大女優Yに対してもそんな風に呼ぶ人はいません。女優さんはそれこそ様々な魔術を使っているのかもしれませんが、一般の人でも実年齢より十や二十ほども若く見える人は少なくありません。別に美容手術などしなくても、見た目に影響する三大要素は肌・髪・歯で、この手入れをそこそこしていればよいのです。一番難しいのは肌のお手入れですが、これは体質に大きく左右されるので、残念ながら手入れすればそれだけ効果があるというものではありません。間違いなく言えるのは、食事と運動が内側から肌を美しくするということでしょう。自分のペースで長続きさせることができるかどうかが鍵です。髪について私の印象では、白髪が目立たないだけで十歳は若く見えるようです。歯は体質による個人差が現れやすいですが、口から食事が摂れることがどれだけ大事かを考えると、こまめな手入れが一番必要な部位です。

 昔、家事は文字通り重労働でした。仕事を持ちながら片手間に行えるようなものではなかったので、家庭内ではほぼ女性が担う役割でした。外での仕事も多く、紫外線を浴びる中で「老婆」がつくられたのです。現在新しい家電が出ると、常ならぬ好奇心が沸くのは遠い記憶が呼び起こされるからでしょう。ともかくこの百年で日本の老婆の基準は二十歳上がりました。これはやはりよいことなのでしょうね。