2015年10月5日月曜日

「フォルクスワーゲン VW」

 フォルクスワーゲンによる米国での前代未聞のエコ偽装事件には本当にびっくりさせられました。びっくりというよりがっかり、いや悲しいに近いなんとも言えない気持ちです。ドイツでは自動車産業は特別の地位にあると思います。シュツットガルトでは駅の上で巨大なベンツのエンブレムがゆっくりと回っておりましたし、ベンツはもちろんポルシェやBMWも自社の博物館を持っていたはずです。比較的南に多い自動車産業の中で、フォルクスワーゲンは北のニーダーザクセン州にあります。州自体が大株主なのですから州の役所や警察関係の公用車はもちろんVWです。なぜかフランクフルトのあるヘッセン州もそうだったような気がするし、とにかく北では優勢という感じでした。ヘルベルトもVWを愛用していました。車で旅行に出る時にいつも乗っていたので私も愛着があり、今回のことは本当に残念でなりません。

 最初は、「そうすることで失うものと得るものを秤にかければ、なぜこんな割に合わないことをしたのだろう。」と思ったのですが、かなり根深い問題がありそうです。ディーゼル車は排気ガス中に存在する「PM」と呼ばれる微粒子と「NOx」なる窒素酸化物の排出削減が技術的に難しい車種らしいのですが、NOxに関しては尿素水を吹いて還元する方法と或る特殊な触媒を使って還元する方法とがあるそうです。ベンツやトヨタは前者を用いていますが、VWは技術的に難しい触媒を使ったタイプを開発してアメリカ市場で販売したということです。ところが米国の厳しい環境基準をクリアするとコストが合わない・・・・ここまでくればわかります。なぜ悪魔のささやきに耳を貸してしまったか、それは物事が単にコストの問題になったからです。触媒を長持ちさせるためには使用時間を短縮すればよい、普段は使わずに検査の時だけ作動するようにすればよい、検査は屋内の決まった環境でなされるからそれを感知できればよい・・・技術的にできることなのだからやらない手はない。これがもう10年も前から行われていた。

 VW自体がもともとは国営企業として生まれたのですが、その後民間企業になっても同族経営にして州も労組も一体みたいな企業であってみればもう何が行われても止めることはできません。この問題は米国に限らずEUにも波及するでしょう。道路で使用すれば違法と警告しつつ部品を提供していたボッシュは無論のこと、スイスでは以前から国内でのこの車の販売を禁止していたというのですから、知っている人は知っていたはずです。そして違っていればよいのですが、ドイツの自動車産業は根底では何らかの形でつながっていると思われるので、他のメーカーにも波及するのではないかと恐れています。まさしく「国民車」のスキャンダルにより、ドイツ・ブランドはいたく毀損されました。国立競技場や東京オリンピックのエンブレムの白紙撤回とは桁が違う、国民が気の毒です。