2024年8月30日金曜日

「涼、求ム」

  暑さのピークは過ぎたかと思っていたら、軽い熱中症になってしまいました。あんなに注意していたのに…と考えると、その原因は「猛暑が長すぎることにある」としか思えません。常に冷房をかけている程度のことではどうにもならないほど、体内に熱が蓄積したのでしょう。熱中症の原因として、夏になってからの気温の総和は大きな基準になるはずです。体温付近の暑さが持続し限界を超えると、体は様々な機能を失っていきます。他の病でもそうですが、私の場合は横になってよく眠ることで回復し、大事に至らず済みました。ただ、注意していたのにそうなったことが何よりショックでした。

 そうこうするうち、今度は変形性膝関節症がひどくなり、今まで比較的軽かった方の脚が痛くて歩行がつらくなりました。これも原因は元をたどれば暑さです。6月くらいまではウォーキングにより大腿四頭筋を鍛えていたので無事でしたが、その後暑さで運動ができなくなり、膝に負荷が掛かったのです。暑さのせいでお風呂に浸からず、シャワーで済ませていたことも悪化の一因です。今のところ、ゆっくりなら割と歩けることもあるかと思えば、歩き出そうとした瞬間に「ギクッ」と飛び上がるほどの痛さに襲われることもあります。「飛び上がるほど痛い」というのは変形性膝関節症には不適当な表現で、実際は飛んだり跳ねたりを想像するだけで恐怖を感じる痛さです。

 暑いと料理をする気になれないのもよくないのでしょう。一応栄養には気を付けているのですが、食欲もないのでとても作る気になれず、外食するか中食に頼るかといった情けない状態です。やる気のない時は無理せずやり過ごして・・・と自分を甘やかしていますが、ラジオで「面倒くさいは認知症へ一直線」と聞いて「前門の虎、後門の狼」といった気分です。でもあと5℃気温が下がって、湿度も20%くらいのさわやかな気候にならないと、到底無理だなと言う気がします。

 加えて、農作物への影響も看過しえません。現在「令和の米騒動」と言われるコメ不足状態ですが、つい先日人に「お米ある?」と問われて通販サイトで検索してみると、「在庫切れ」が続出。在庫があるものも私の知らない銘柄ばかりで、値段も普段の2~3倍と見受けられました。確かにいくらコメ不足と言っても、「知らない銘柄のコメをいきなり十キロ買う勇気はないよな」とサイトを閉じました。他にも、きゅうりやトマトといった何でもない夏野菜が、収穫量が少ないのか、値が張るようです。

 また、現在九州から日本列島を横断しつつある台風を見ても、初めの予想はもっと東寄りで、関東も上陸予想内にありました。現在は全く違う進路を辿っていますが、一週間ほど前に「台風直撃」を心配したクリニックから予約変更を打診するお電話をいただき、有難く思いました。台風の進行速度があまりに遅かったので結果的には必要なかったのですが、最近の台風の進路を予想をするのは誰にもできないことでしょう。

 自力で動けない台風を押し上げて移動させる風がないため、進行速度が遅く降雨が何日も続くので、九州などは積算総雨量が過去最高の1000~2000超予想、台風から離れた東海、関東でも大雨・洪水警報が目白押しです。風も最初奄美辺りにいたころは一部建物倒壊レベルの60~70m/hという過去経験がない猛烈な強風でした。新幹線も最近よく止まる。以前はこんなことはめったになかった気がします。移動予定の人はスケジュールを立てるのが大変でしょう。人命が危ぶまれる状況で、他の生物、植物、農作物に影響がないわけがありません。「動かない台風」が常識になる時代、収穫の秋を前に心配を禁じえません。元をたどれば全て温暖化問題に行き着きます。これが解決する見込みは当面ないのですから、こんな夏が毎年続くのです。ラジオで誰かが「昔の夏はもっと楽しかった気がする」と言っていました。100%同意します。


2024年8月23日金曜日

「イヤホンの形」

  生活するための情報の多くを耳から得るようになって、イヤホンは私にとって欠かせないものになり、ヘッドホン型のものから耳の中に入れるものまでそれぞれ数種類をいつも手元に置いています。ヘッドホン型は3m以上とかなりコードが長く、パソコンを音声ソフトで読ませながら家事をするのに便利ですし、耳に入れるタイプのイヤホンは1mから1.5m程度の長さのコードで、それぞれ携帯用音声読書器を胸ポケットやタスキ掛けにしたポーチに入れて聞くのに最適です。

 しかし長年の課題として、なかなか体に合うイヤホンがないという問題を感じています。ヘッドホン型では非常に軽量の、頭を押さえつけないタイプを使っていますが、どうも耳の形に合わせて装着するよりも逆向きに頭に置く方がしっかり固定できます。別にどの向きに当てなければならないという決まりはないので構わないのでしょうが、一般的に想定されている向きで使用するとずり落ちやすいことを考えれば、自分の頭の形は標準からずれているのかもしれないという、これまで考えたこともない疑問が浮かびます。

 耳の中に装着するタイプのものはなおさらです。小型ラジオなどに付いてくるおまけのような片耳(もしくは両耳)用のイヤホンをインナーイヤー型イヤホンと呼ぶそうですが、これは耳の表面の耳介(外耳孔を囲んでいる貝殻状の突起)と呼ばれる部分にイヤホンの音の出る部分を引っ掛けて装着するタイプです。私はこのタイプのイヤホンが耳に合った例がありません。だいたい「接着面が少なく外れやすい」という以前に、「こんな大きなものがどうやって耳介に収まるのか」と思えるほどのサイズで、最初は「使用法が違うのか?」と謎で仕方ありませんでした。推理小説などで犯人の耳の形が分かった場合、耳の形は一人一人違って、指紋に匹敵する証拠能力があるという話が出てきますが、納得のいくことです。このタイプのイヤホンはせっかく付属していてもまったく無駄になるのが残念ですが、いずれにしてもこの形状では音漏れするに違いなく、少なくとも外では使えません。

 一方、外耳孔に深く押し込むようにして使用するタイプのイヤホンをカナル型イヤホンと言うそうですが、こちらは音の出る部分にシリコンのカバーが付いているのが一般的です。初めてこのタイプのイヤホンで音を聴いた時には、外部の音が遮断できるその密着感に感動したものです。仕様がしっかりしたものは左右で形状が違い、外耳孔に合わせて描くゆるやかな弧のおかげで上手くフィットするようです。集中して何かを聴きたいときにはこれに限ります。逆に、散歩中に聴く場合などは片耳は外しておいた方がよいかも知れません。音楽を専門に聴く方の中にはインナー型を愛用する人がいるとのことですが、個人的には私はカナル型の愛用者です。しかしこれにも問題があります。通常交換できるシリコンのサイズは大中小の三種類あるものの、私の場合大きいサイズを用いてもなお、耳孔の間に少し隙間ができて外れやすいのです。ここに至って、残念ながら、恐らく私の耳の形状やサイズは標準から外れているのだろうと結論せざるを得ません。身長など目に見えるサイズで標準云々を気にしたことはありませんでしたが、普通比べることのない部分では思った以上に個人差が大きいこともあり得ると自覚した次第です。この歳になってこんな身近なことで新たな発見があるとは思いませんでした。


2024年8月16日金曜日

「パリ五輪雑感」

  オリンピックとは不思議な大会です。普段さほどスポーツに関心のない人も「にわかファン」にしてしまう力があるのです。そしてこれはナショナリズムの高揚と分かちがたく結びついているのが特徴です。私の場合は子供のころとは違って、単純に自国の選手が勝てばうれしいといった感じではなくなり、一つのことに打ち込んできたアスリートがその成果を発揮する舞台として見るようになりました。ただ、その人間の限界に挑んだ究極の成果を残したのが自国の選手であれば、やはり特に注目してしまいます。戦火を交えている国同士の選手が、どのような心持ちで試合に臨んでいるか知るべくもありませんが、この大会が本当の意味で平和の祭典になる日が来ることを願わずにはいられません。

 私がざっと試合を見て感じたことを一つ挙げるなら、「とても公平な大会だった」という印象です。今回も含めて今まであまりオリンピックをかじりつくようにして見た経験がないのですが、これまでは結構「あからさまに不公平な審判」や「観衆が見てもあり得ない採点」や「世紀の大誤審」などがあって、「こんなの見るに値する大会じゃない」と思うことも多かったのです。しかし今回はそういう後味の悪いことはなく、とてもよかったと感じています、

 私が注目していたバレーボールについて言うと、男子は1勝のみ、女子は一試合も勝てていない。それでも男子が決勝トーナメントに進めたのは、出場国12チームのうち最初に4チームだけふるい落として8チーム残すからです。つまりA、B、Cの3つのブロックにおいて、各ブロックの3位であってもその中の最下位でなければ決勝トーナメントに進めるのであり、まさに日本は第8位でここに滑り込んだのです。そしてその順位の決定方法は非常に精妙に手順が定められています。今回私が初めて知ったこととして、①勝ち点の数え方(勝った場合、3-0と3-1は3点で、3-2だと2点。負けた場合、0-3と1-3は0点で、2-3だと1点)、②セット率の計算方法(得セットを失セットで割る)、③得点率の計算方法(得点を失点で割る)があり、勝利数が同じならこの順で決定されます。とてもよくできているなと思います。

 そもそもこのオリンピック予選を通過して本選に臨める12チームに入るということ自体、途轍もなく大変なことであり、どんな強いチームでもほんの少しの不測のファクターがそれを阻むことになりかねないレベルの高さです。このくらいきっちり決めておかないと優劣つけがたいチーム揃いと言ってよいでしょう。ですから、決勝トーナメントに関しては、私は「勝負は時の運」だと思っています。

 決勝トーナメントのイタリア戦は地上波の放映はなかったので翌日惜敗(2セット連取してから3セット取られた)という結果を聞き、「残念無念」の一言でした。退任するブラン監督の肩に顔をうずめて涙する選手を動画サイトで見て、「本当にいい監督だったのだな」と、彼らしか知りえない掛け替えのない時間に思いを馳せました。「勝たせてあげたかったな」とは正直な気持ちですが、それは不遜で傲慢な考えです。選手自身が一番悔しく、「力が足りなかった」と情けない思いをしているのです。しばらくしてからキャプテンの石川祐希が「・・・・これが今の実力。この結果を受け止めて、ここから強くなるしかない。・・・・」という趣旨のコメントを出しました。自分で全て分かっているのです。そして、「さらにバレーボールを極めたい」との決意を述べているのはさすがです。

 イタリア戦終了後に、選手に対しSNS等で心無い誹謗中傷をした者がいると聞いて、はらわたが煮えくり返りそうでした。バレーに限らずほかの協議の選手に対しても同様のことがあったとのこと、言語道断のとんでもない行為で、このような人たちはファンどころか人として最低です。こういう人は自分のために日本チームを応援していただけであって、選手の人気を笠に着て、ただ自分の自尊心を満足させたかっただけの人たちです。選手は何の責任も感じる必要はありません。本当のファンはどんな時でも応援するものです。悩み、苦しみの日のためにファンがいることを忘れずにいてほしいと思います。


2024年8月9日金曜日

「2024年の夏」

  暑さはあと2か月は覚悟していますが、8月7日は暦の上での立秋でしたので、今夏の前半、これまでのところを総括してみます。それはずばり、「猛暑とパリ五輪と経済不安の夏」ではないでしょうか。

 猛暑については何度も書いていますが、付け加えるなら「東京では7月の熱中症による死者が123人だった」ということです。「無理もない」と十分納得できる数字で、私も最低限の外出以外は家でエアコンをかけてじっとしていることしかできません。帰省先は東京よりは耐えられる暑さでしたが、今年は午前5時でも暑くて草むしりがほとんどできませんでした。料理をする気にもなれず、兄と車で外食に出るか、調理せずに食べられる惣菜を買いに行くといった悲惨な状態でした。一番困るのは、長引く暑さでウォーキングや運動ができず、筋力低下のためにちょっとした動きで肉離れが起きたり、変形性膝関節症や手足の関節の痛みが次々と起こっていることです。エアコンをかけても眠れぬ日が多く、あと2か月体がもつだろうか、一日も早く涼しくなってほしいと祈るばかりです。

 パリ五輪は帰省中かなりテレビを視聴し、堪能しました。やはりスポーツ観戦はラジオでは少々きつい。私が一番驚いたのは柔道のルールが相当変わっていたことです。はるか昔の私の記憶では、柔道は両者ともなかなか組み合わず、何かとてもせこいポイントで勝敗が決まる、全くつまらない試合が多かった印象がありましたが、現在では攻めないと失点するというルールになっていてとても面白くなったなと感じました。実力が試合にきちんと反映するルールを設定することの大切さを知らされた思いです。また、開催国フランスの柔道熱の高さに驚くとともに、世界のスポーツとなった日本発の武道を感慨深く鑑賞しました。あとは何といっても体操男子20歳の「みんなの慎ちゃん」の金メダル3冠(団体総合、個人総合、個人鉄棒)でしょう。内村航平の全く板についていないインタヴュアーぶりもよかったけど。

 経済に関しては、新札が7月10日ごろから出回り始め、数字がやけにでかくて慣れないうちはおもちゃみたい。物価高は相変わらず続いており、いずれ必要と分かっているものはさらに高くならないうちにと取り敢えず購入するという買い物パターンがすっかり身に着きました。ちょっと前までずっと、円安が止まらない一方、どこまで続く株高状態となっていましたが、8月に入って激しく乱高下。株価は一日でこれまで最大の暴落(4400円超え)を示したかと思えば翌日には最大の上げ幅(3400円超え)となり、円の価値も150円あたりを挟んで10円以上目まぐるしくかわる状況です。

 私は一昨年「経済を学ぶ」というタイトルで次のように記しました。

 「日本の経済、特に金融界で扱われている事業はほぼアメリカ直輸入のコピーですが、こういうことに庶民を巻き込むのはいかがなものかと強く思います。金融の強欲資本主義がサブプライムローンという詐欺的手法で奪ったものが庶民の家と暮らしだったことを忘れてはならず、新自由主義者たちは人の道に反する悪徳商品で儲けることに全く罪悪感がない人たちだということを心に銘記すべきです。・・・・不安を煽られて金融経済に巻き込まれていく人が増えるだろうと思うと、やりきれない思いです。

・・・・・・経済をどのくらいのスパンで考えるかにもよりますが、今後マイナス金利が続こうと私のような怠惰な年寄りは「もうこのままでいい」と静観の境地です。金融の世界は』誰かの得は誰かの損』になる世界、一般人が今更ゼロサムゲームに参加しても、投資で飯を食っているプロの餌食になるだけでしょう。日本人は『バスに乗り遅れるな』的掛け声に非常に弱いですが、昨今の投資への煽りはカモを呼び集めている気がして仕方ありません。賭場におけるヒリヒリするような感覚が好きな人、一か八かの賭けに出るところまで切羽詰まっている人、あるいは二十年先まで真剣に考えて策を練っている人でなければ、『みんなやってるし』程度の気軽な気持ちで乗せられてよいのか、他人事ながら危惧しています。なぜなら実感として、今まで政府や金融界が推し進めてきたことで庶民にとってよかったことなど何もなかったからです。・・・・・・」・

 また、昨年9月には「経済の仕組み」の中で次のように記しました。

 「・・・・・・今では米国との間の互いの経済の在り方は一蓮托生、無尽蔵とも言えるほど増大させ続けてきた実体のないマネーは間違いなくいつかクラッシュするので、これに伴うカオスに付き合わされると思うと気が重くなります。・・・・・

・・・・バブル崩壊以降、特に21世紀の日本の金融政策はただただ国家財政を破綻させないことだけを眼目にしてきたため、ゼロ金利を押し付けられた国民は実質的な大増税を課され、貧困化したためにもはや大好きな貯金をする余裕もなくなったのです。せめて金利が2~3%あったならこれほど惨めな安い国にはなっていなかったでしょう。・・・・・

・・・・日本も低成長およびゼロ金利となって久しく、「失われた三十年」という言葉もあるくらいですから、今後円安が加速するのも確実でしょう。政府は株式市場への国民の参加を大々的に奨励し、個人所得を増大させようとしています。しかし、2024年からの新しい少額投資非課税制度(NISA)に合わせ、ネット証券最大手のSBI証券と2位の楽天証券が9月以降、日本株の売買手数料を無料にするという話を聞くにつけ、そこまでして顧客として大衆を巻き込まないとならないほど追い詰められているのかと、かえって株式市場の危険感が増したと感じるのは私だけでしょうか。・・・・・」

 心配していた通り、いわゆる新NISAを始めて、少なくない方が今回の株の暴落で被害を被ったのではないでしょうか。そしてもちろん、不慣れな投資でなすすべなく失ったマネーをごっそり手に入れて大儲けした相場師もいるのです。

 株は私には無関係ですが、ただ一つ、最近「これはいかん」と行動を起こしたのは米の購入です。気候変動の影響は米も例外ではなく、どうも米不足になりそうだと聞いて、さっそく通販にアクセスしてみると、なんといつも買っている「つや姫金芽米」5キロがない! あっても1.5倍の値段になっている! まだ3キロ以上玄米があるものの、「食事は米さえあれば何とかなる」と思っている身としては、これは由々しき事態。かろうじてまだあった「まばゆきひめ」5キロを購入することにしました。初めて聞くブランド米ですが、品種としては「ひとめぼれ」らしい。山形の同じ産地の米だし、「ひとめぼれなら美味しいはず」と取り敢えず注文して、ほっと一息ついて到着を待っています。何だか大変な夏です。


2024年8月2日金曜日

「マンション管理組合のあるべき姿」

 先日、たまたま集合住宅のロビーで出会った居住者Aさんと立ち話をする機会があった。Aさんとは普段行き来するような間柄ではないが、ことマンションの管理に関する課題についてはお互い問題意識を共有することが多く、そのたびに連絡を取り合う仲である。実は、先月の管理組合理事会の議事録にあった「管理協力金」について私は大きな疑問をもっており、彼女の意見を聞きたいと思っていたところだった。

 「管理協力金」とは何かと言えば、「理事を辞退する住戸が支払うお金」とのことで、私は仰天した。ここ2、3年は理事会の出席率は9割ほどで議事運営に支障はないと思われるのに、ずっと欠席し続けている理事のことが問題になっているらしく、そういう「どうしても理事を引き受けられない」ケースに備えて、「協力金」(という名目で事実上の罰金)を科した方がよいという話になっているらしいのである。

 これは由々しきことである。今の理事会の方には分からないと思うが、私が理事だった7~8年前は理事会に人が集まらず、定足数に足りるかどうか毎回ハラハラして理事が集合するのを待っていたものだった。なぜそんな状態だったかと言うと、このマンションの理事会は発足当時輪番制ではなく、輪番制に移行したのが十年以上たってからだったためである。それまでの経緯が様々あってスムーズに運営できるシステムがなかなか確立せず、隣の住戸の方が理事になれば「次は自分の番」と分かる程度のことだったのである。どのような組み分けで今現在どのように順番が進んでいるのかという具体的な俯瞰図が周知徹底されていなければ、あまり自覚がないまま理事になり、よく分からないし面倒だから理事会に出たくないと思う人がいてもおかしくない。

 私に理事が回ってきたのはまさにそのような時で、私自身理事会のことを考えるといつも本当に胃が痛かった。従って私がまず手をつけたのは総括的な輪番表づくりだった。これを理事が後退する時期の半年前に全戸に配り、自分はどの班で、自分の班の次の理事は誰か、また自分のところに理事が回ってくるのは何年後かが一目瞭然に分かるようにした。これによって各戸に理事の自覚を醸成でき、また各期の理事会がそれぞれ欠席者に声掛けするなど尽力した結果、出席率9割の理事会が出来上がったのである。

 理事会の仕事は時に非常に大変で、この負担を免れている住戸に批判の目が向くのも理解はする。「一度も出席できないなんてことがあるか!」という苛立ちも分かる。全員出席できるに越したことはないが、今回検討されている「協力金」案はその解決にならないと自信を持って言える。なぜなら、「やむを得ず理事を辞退する場合には協力金を払う」という制度が確立すれば、これは理事をしたくない人の頭の中では容易に「協力金を支払えば理事を辞退できる」と変換されるに違いないためで、私は何よりこれを恐れるのである。はっきり言って喜んで理事会の仕事をする人はまずいないので、お金で解決できるなら…と皆が考えれば理事をする人はいなくなる。これまで苦労して築き上げてきた理事会の在り方があっという間に崩壊するのが目に見えるようだ。

 この提案の決定的な欠陥は「やむを得ず理事を辞退する」ことができる基準を理事会が提示できないことにある。今どき全くの健康体で通院等がない高齢者などおらず、また仕事や子育て、介護や看護等で忙殺されていない家庭などないのだから、或る住戸が理事を辞退でき、別の住戸はそれが承認されないなどということはあり得ない。もしあれば、巨大な不満が他ならぬ理事会に向かって渦を巻いて流入するであろう。「協力金」が或る住居から得られない場合、それを取り立てる法的根拠はあるか、誰が徴収するのか、毎月ある理事会に1回だけ出席した場合はどうするのか・・・といった、具体的な手順を少しでも考えれば「これは到底無理だ」と分かるだろう。そしてどんな場合もそうであるように、お金が絡んだ場合の不和は回復できないものとなる。

 或る不都合な事態を改善する簡単な方法などあり得ないと、私は日頃から思っている。軽く考えて実行に移した場合、以前よりも一層事態が悪化することも多い。こと居住環境の保全または改善に当たっては、全員が相応の責任を負って、力を合わせて進んでいくしかない。世の中には仕事の分かち合いという形でしか保てないものもあるのである。

 その後、Aさんより連絡があり、大規模修繕など他の問題も含めて意見のある方々が、理事会に臨席して意見を述べ、問題を解決したとのこと。「協力金」に関しては廃案になったと知らされた。すごい行動力! Aさんは前のマンションで、理事会が管理会社の言うままに管理費をとめどなく増額させていったのに業を煮やして引っ越してきたというツワモノ、やはり経験知が違う。こういう人がいると本当に心強い。